マシュマロ気分


「さみー!!!」

誰も聞いてないってわかってても、こういう時はつい声に出ちゃうよな。

どういう時かって?
クリスマス寒波とかなんだかで、めちゃ冷え込んで今にも雪が降り出しそうなイブの夜に、暗いベランダに出てファンヒーターのタンクに手動ポンプで灯油を入れている、今みたいな時だよ。

ヒーターは点いていないとはいえ、充分に温かく明るい室内で、呑気そうにアクビをしている猫のブルーがやけに羨ましい。

くそ、なんで俺だけこんな寒いところで、誰もやりたがらない地味な作業やってなきゃならないんだ。
なんて思いながらやけになってやたらと力を入れてポンプを使ってたら灯油を溢れさせてしまった。

「やばっ!!」

慌てて灯油を少し戻し、こぼしてしまった灯油を雑巾で拭く、ほんとに何やってんだ、俺は。情けなさに余計寒さが身にしみる。

かじかんでうまく動かない手で、なんとかタンクのキャップを閉めて、部屋の中に入る。
うう、あったけえ、まさに生き返る、って感じ。いやマジで。

俺の姿を見つけたブルーが足元に擦り寄ってくる、くそ、可愛いじゃねえか。
こういうところがこいつの魅力なんだよな。機嫌が悪いとたまに引っ掻かれたりもするけど、本気で憎む気になんてなれない。

足を使ってブルーをあやしながら、ヒーターに満タンのタンクをセットしてスイッチを入れる。程なくしてボッという低い音とともに青い炎が点った。うん、この瞬間って結構好きだな。


「どうもありがと、寒かったでしょ」

そう言ったのはブルー。
なんて訳はなくて、キッチンから顔を出した彼女だった。
ブルーはもともと彼女の飼い猫で、ひと月前に彼女と一緒に俺んとこにきたってわけ。

「ブルーがほしい」って言ったらついてきた、というのはもちろん冗談だけどいい口実にはなった。
元から俺になついていたブルーは、今ではすっかり俺の家族だ。

うん、ブルーは家族なんだけど、彼女はどう思ってるんだろう、正直ちょっとわからないっていうか、いや、自信はある、きっと思ってるはずだ、思っていてほしい・・・。
やべえ、だんだん弱気になってきた。

「そりゃもう寒いなんてもんじゃないぜ、ガチで凍え死ぬかと思った」

思い切りアピールしたら、

「大袈裟ねえ、灯油入れたくらいで死ぬわけないでしょ」

と、さらっと受け流され、彼女は再びキッチンに引っ込んだ。
う、そりゃ凍死は言い過ぎだけどせめてもう少しやさしくしてくれてもいいんじゃないか。

部屋はあったかいけど、ココロはちょっとだけ寒いかも。
そう思いながらブルーの背中を撫でていたら、ふわっと甘い香りがした。
振り向くと彼女がマグカップの乗ったトレイを持ってニコッと笑ってた。

「おつかれさま、ほんと助かったよ、はい」

カップを受け取る、甘い香りの正体はホットココアだった。
あ、さっきキッチンにさっさと引っ込んだのはこれのためだったのか。へへ、めちゃ嬉しい、一気に心の中までホットになった気分。我ながら単純だな、まあいいか。

カップに口を付けると、半分溶けかけた白い小さな固まりがいくつか浮いているに気づいた。これなんだ?

「あのさ、桃花、この白いのなに?」
「ああ、マシュマロ。うちではいつもココアにはマシュマロ入れるんだけど、もしかして嫌いだった?」
「あ、いや、嫌いじゃない、大丈夫」

不安そうな顔をした桃花を安心させるためそう答えたけど、好きも嫌いも今までマシュマロなんて食った覚えがないからなんともいえない。
存在は知ってるけど、フツー男が買って食わないだろ、マシュマロって。

ココアと一緒に口に入れると、熱いココアを含んで溶けたマシュマロの甘い香りととろっとした食感が広がった。
初めての感覚、悪くない、てかかなりイイ感じ。

「美味い」
「そう、よかったあー。あれ?」
「どうした?」
「雪降ってきた、ホワイト・クリスマスだね」

桃花が窓の外を指さした。

「え、あれ、ホントだ」

桃花の言う通り外はいつの間にか雪になっていてすごく寒そうだけど、俺の心は温かいを通り越して熱くなってきて・・・
思わず桃花を引き寄せてキスしてしまった。

甘い、ココア味のキス。
しばらくして唇を離すと桃花は少し潤んだ目をしてた、うおお、なんというかすっげえ色っぽい。普段どっちかといえばサバサバしてるほうだから、そのギャップにものすごくドキドキする。

「青司、ずるいよ、溶けちゃいそうだった・・・」

か、可愛いこと言うじゃないか。ずるいのはどっちだよ。

「ココアに浮かんだマシュマロみたいに?」
「うん」
「じゃあ、いっそ全部溶けてしまえば、俺の中に」
「・・・ばか」

口を尖らせた、桃花のその唇に俺はもう一度さっきより深いキスをした。


END




どうしても今日は何か書きたかったので、久々に甘いの投下してみました。
これは去年の今頃書いた「ハッピー・ブルー」の続編です。
一緒に暮らし始めた二人の初めてのクリスマス。
情けない描写で男がヘタれるとこから始まるのは相変わらずですね。

Merry Christmas!
どうぞよいクリスマスを・・・



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