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魔性の月 The Secret Moon


プロローグ 放課後の生徒会室

放課後の生徒会室。

 書記の日向唯(ひなた ゆい)は、広報誌の原稿の作成に忙しかった。
 唯はあまりPCが得意なほうではない。文章を書くのは好きなので、原稿を書くところまではいいのだが、それを紙面にするための編集が難しい。

「はあ、今日に限ってだれもいないなんて」

唯は思わず独り言ちた。

いつもなら、PCが得意な副会長や会計が、編集作業を手伝ってくれるのだが、今日はふたりとも急な用事が出来たとかで先に帰ってしまった。
締切りは明日、出来なければみんなに迷惑がかかる、唯は焦っていた。

「ええと、テンプレートはこれだっけ、あれ?」

行がずれてしまい、うまく収まらない。

「えー、どうしよう」

唯は頭を抱えた。


その時、ドアが開いた。

「あれ、日向、ひとり?」
「あ、会長」

入ってきたのは、生徒会長の月島優(つきしま ゆう)だった。

「会長はやめてくれよ。生徒総会のときだけにしてくれ、照れるから」

優がにっこり笑う、唯の心臓の鼓動が早くなった。

唯は高校に入学したときからずっと優に恋心を抱いている。

優は眉目秀麗、成績優秀、性格は温厚で男女を問わず人望があり、当然、モテる。なぜか、いまだ特定の彼女はいないらしいがとても告白する勇気など持てなかった。

2年に進級した時、となりのクラスで、あまり話したこともなかった優から、突然「一緒に生徒会役員に立候補しないか」と言われたときは、驚いたがとても嬉しかった。

そして、目出度く当選した二人はこうして一緒の時を過ごすことが多くなった。それだけで十分だ。


「何やってるんだ、ああ、広報誌?」
「うん」

優がPCの画面を覗き込む。
間近に優の端正な顔を感じ、唯の心臓はさらに早鐘を打ち始めた。

「テンプレートにうまく収まらなくて」
「ああ、フォントが合ってないんだ、ここをこうして」

優がマウスをクリックすると、原稿はきれいにテンプレートに収まった。

「すごい、月島くん」
「いや、フォント変えただけで大したことはしてないから」
「でも、私じゃそんなこともわからなかった。何か恥ずかしい、わたし、パソコンとか全然できなくて」

重度のパソコン音痴だなんて、憧れの優に、あまり知られたくなかった。

「いや、そんなことないって。それより、日向は文がすごくうまいじゃん。日向が文書くようになって、“きぼう”すごく評判いいんだぜ。読みやすいし、楽しいって」
「そう、かな」
「ああ、もちろん。ところで」

優に真正面から見つめられ、唯はうろたえた。

「なに?」

「日向、今日はなんでひとりなんだ?」
「ああ、それは、副会長の永井さんも、会計の山下くんも用があるとかで先に帰っちゃたから」
「ええ!明日締切りなのに、お前に全部仕事押し付けてか?!」
「ううん、二人とも何回も謝ってくれたし、なかなか出来なかったのは、パソコンできないわたしが悪いんだし」

あのときは正直途方にくれたけど、結果として今、優とふたりきりでいられる。
そう思うと、唯はふたりに感謝したいような気分だった。

「それにしたって、人が良すぎだよ、今度俺から言っとくから」
「いいって、ほんとに。いつもはちゃんと手伝ってくれるんだから」

わたしは、彼とふたりでいられることに幸せを感じていたのに、彼のほうは他の役員が帰ってしまったことに憤っている。そのことがちょっと悲しかった。
わたし、何とも思われてないんだな、覚悟はしてたけど。

「そんなにしょげるなよ、俺でよければ手伝うから」
「ほんとに?」

しぼみかけていた気持ちが、また膨らむ。

「ああ、早く仕上げて帰ろうぜ。遅くならないうちに」
「うん、そうだね」

わたしは、少しでも長くこの時間が続いてほしいのに、彼は早く帰りたいんだ。でも、生徒会長の務めとして、わたしに仕方なく付き合ってくれてるんだ。
唯の胸は切なく痛んだ。

でも、
それでも、彼と一緒にいられる。

今、幸せだ、私。

「じゃあ、よろしくお願いします」

唯は優に向かって微笑んだ。




お久しぶりでございます。
こちらは「FC2小説」でR-18カテゴリで書いていた小説です。
ブログに転載するにあたり問題になりそうな部分は削除、もしくは修正しております。
全年齢対象とさせていただきますが、普段の水聖の作品と比べますと、多少刺激のつよいせりふや表現があるかもしれません。
今回分は大丈夫と思いますのでそのまま載せましたが、今後気になる表現があると思われるときは冒頭にてお知らせいたします。


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魔性の月 The Secret Moon 2

月が昇るとき


それから暫くののち。

優のおかげで、無事広報誌の原稿は完成した。
出来上がった文書を保存し、サンプルを印刷して、PCの電源を切る。
これで、明日の朝一番で印刷に出すことができる、唯はほっとした。

「ふう、何とか終わったな、お疲れ様」

優は鳶色の瞳を細めてにっこり微笑んだ。
澄みきった瞳。唯はこの瞳が何より好きだ。見ているだけで幸せな気分になれる。

「ほんとにありがとう、わたしひとりだったら、明日になっても終わらなかった」 
「これからは何でも遠慮せずに俺に言えよ、ひとりでなんとかしようとか考えなくていいから」
「うん」

優の優しいことばに胸の奥が暖かくなる。
たとえ、生徒会の一員としか思われてなくても、優の心遣いがうれしい。

「よし、じゃあ、帰るか」

優の言葉にチクリと胸が痛んだ。二人だけで過ごせる幸福な時間、それがもうすぐ終ってしまう。

「うわ、もう外真っ暗だぜ」

確かに、編集作業に夢中で気付かなかったが、日はすでにとっぷり暮れ、外は闇に包まれている。この中を一人で帰るのか、唯は心細くなった。
その時

「日向、送ってくよ」

優の言葉に、思わず耳を疑った。
確かに、優の家とは方角が一緒だが、今まで一度も誘われたことはない。

「え、いいの?」
「そりゃ、もちろん。女の子に夜道をひとりで歩かせるなんて危険なことをさせるわけにはいかない」
「でも、今まで一緒に帰ったことなんかなかったし」
「日向はいつも永井と一緒に帰ってるだろ、それに、家がわりと近いからってふたりで一緒に帰って噂になったりしたら、困るかなとか」
「うん、そうだね」

月島くんはわたしと噂になったりしたら、きっといやなんだろうな。もう、他に好きな人がいるのかも。そう思うとまた、胸の奥が痛んだ。

「まあ、でも、もう誰も残ってないみたいだし、日向に何かあったら大変だしさ」
「生徒会長の責任問題だもんね」

唯がそう言うと、優は、なぜか唯の顔をまじまじと見つめた。
やだ、わたし、何か変なこと言ったのかな。
唯は不安になった。
優は、しばらくの間、唯の顔を見つめていたが、やがて視線を逸らした。

「うん、そうだよな」

今の間はなんだったんだろう。
それが少し気になったが、優と一緒に帰れること、もう少しの間二人きりでいられる喜びに、すぐにそのことは忘れてしまった。

「日向、窓閉めてくれ」
「あ、はい」

窓辺に近づき、空を見上げた唯は息を呑んだ。

今夜は満月だったらしい。紺碧の空には目を奪われるほど鮮やかなオレンジ色の大きな月が輝いている。美しいがどこか禍々しい。

「すごい月・・・」

思わず呟いた唯の後ろで、パチンと音がしたかと思うと頭上の蛍光灯が消えた。


魔性の月 The Secret Moon 3



(え?!)

どきりとして振り向くと、優が近づいてきた。

「そんな怯えた顔するなよ、襲ったりしないからさ。このほうが、月が見やすいだろ」
「あ、うん、そうだね」

ほんのちょっとだけ、期待してしまった。私ってバカみたいだ。

「うっわあ、確かに何かすごいな。きれいだけど、きれいすぎて何か怖いような・・・」

優はそんな唯の思いなど全く気づかぬふうで、隣に立つと空を見上げて感嘆の声を上げた。

肩が触れ合い、緊張と興奮で胸がドキドキする。優の顔を見る勇気がなく、唯がずっと月を見つめていると、反対側の肩に優の手が回された。

(う、うそお)

恐る恐る優の顔を見上げる。
目が合い、優が微笑む。その微笑みはどこか妖艶な感じがして、今までに見たことのない表情だった。

「つきしま、くん?」

わずかな、だが確実な違和感。何かが違う、いつもの優と。

と、
優が口を開いた。

「愛してるよ、唯・・・」
「う、うそ・・」

あまりに突然の告白。
嬉しいはずだが唯は素直に喜べなかった。

違う、何が違うのかわからないけれど、これは私の知っている月島くんじゃない。唯の心が警鐘を鳴らしていた。
肩を抱かれたまま、1歩後ろに下がる。怖かった。

「どうしたんだい?愛しい唯。君は僕が好きなんだろ、ちゃんと知ってるよ」
「あ、あなた、誰?」

声が震えているのが自分でもわかった。

「おかしなことを訊くんだね。僕は月島優。明光学園高校2年F組、出席番号21番、生徒会長。君だって知ってるだろ。」
「嘘、あなたは月島くんじゃない!」
「困ったお嬢さんだね、僕が月島優じゃないって証拠でもあるのかい?」
「月島くんは自分のことを僕とは言わない。私のことも君とは呼ばない。あなたはいったい誰なの!?」

優の顔をした彼は、くくくっ、と笑った。

「驚いたよ、迂闊だった。そこに気づくとはね。君はよほど優のことが好きらしい。今までなんどか入れ替わったけど、気づいたのは君だけだ」
「やっぱり。今すぐ月島くんの中から出て行きなさい、偽者!」

彼の眉がつり上がった。

「イヤだね。せっかく愛しい君とふたりきりになれたのに出て行くなんてまっぴらだ。僕はずっとこの機会を待っていた。君を手に入れるチャンスをね。」

唯は彼の手から逃れ、さらに後ろに下がる。腰がテーブルに当たった。

「それ以上は下がれないよ、どうする?」

彼の口調は、捕らえた獲物をいたぶる肉食獣のように、冷酷で楽しげだった。




先日久しぶり更新しましたら、ご訪問くださった方がたくさんいらっしゃいました、本当にありがとうございます。
このあとは大幅な変更があるので少し更新が遅れるかもしれませんが頑張ります。



魔性の月 The Secret Moon 4


豹変



逃げようと踵を返した唯の腕を彼が掴み、有無を言わせず引き寄せる。そして唯はそのままきつく抱きしめられた。彼の体からは優の香りがして、思わず錯覚しそうになってしまう。

目を閉じて、ずっとこのままでいたい。
彼の腕の中で、ついそう考えてしまった唯だったが。

「愛してるよ、僕の唯」

彼の言葉にはっと我に帰る。

違う、この人は月島くんじゃないんだ、逃げなきゃ。

唯は彼の腕から逃れようともがいた。

「どうして逃げるの、君はずっと僕のことが好きだったんだろう」
「違う、わたしの好きな月島くんはあなたじゃない!」
「ふうん・・・。どうあっても僕を拒否する、と・・・。そうか、じゃあ仕方ないね」

彼の言葉はぞっとするほど冷たかった。

「力づくってのは僕の趣味じゃないけど」

言うなり、彼は唯にのしかかり後ろのテーブルに押し倒した。
彼の手が唯の両手首を掴み、縫いとめる。圧倒的な力の差に唯はなすすべもなかった。

「イヤ、放して!」

必死にもがくが逃れることなどできるはずもない。

「大人しくしてくれないかなあ。君に痛い思いはさせたくないんだ。愛しているからね。大丈夫、力を抜いて身を任せていればいい。そうすればすぐに君を天国へ連れていってあげる・・・」

唯は激しく頭を振った。

「いいんだよ、僕のことを愛してなくても。今、君が僕じゃなくて優に抱かれるんだと思っていても、それでもかまわない。僕はどうしても君が欲しいんだ、唯」

彼の蠱惑的な言葉、それは悪魔の囁きだ。

・・・この人はどうして月島くんと同じ姿で同じ声なんだろう。

いや、それだけではない。確かに優と同じ声なのだが彼の言葉は甘美な毒を孕んでいて思わず身を任せてしまいそうになる、堕ちてしまいそうになる。
いけないとわかっていながら誘惑に負けて禁忌の箱を開いてしまったパンドーラのように。


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