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指輪と麻花1

ちょこっと蒼ミク。
「星くず桜」のその後のヒントはこの話です。短編です、た、たぶん。

指輪と麻花1


5月5日、木曜日。

ゴールデンウィークの3連休の最終日。あたしは仲良しのすみれちゃんと買い物に来ていた。

ゴールデンウィークの期間中は塾もお休みで蒼くんは静岡の実家に帰省中。
蒼くんの弟の青司くんが帰ってきていて、久しぶりに家族が揃うからということで、お母さんから電話で呼び出された、って言ってた。

それはぜひ帰らないとね、って言ったら、「さびしくないの?」って拗ねられた。
もちろん少しさびしいけど、あたしはいつも蒼くんを独り占めしているようなものだから、たまには親孝行もしてほしかった。

今の時代ってみんなそれぞれ忙しいから、家族っていっても一緒に過ごせる時間って意外と少ない。

あたしの家だってそう。
お父さんもお母さんも、なかなか家にいる時間が取れない仕事だし、おねえちゃんはレッスンで家を空けることが多かった。それに高校を出てすぐにドイツに留学してしまったし。
あたしはいつもひとりで、すごくさびしかった。

一度だけ蒼くんのお母さんに会ったことがあるのだけど、お母さんはあたしと似ていた。
蒼くんのお父さんは出張の多い仕事で、平均して月の半分以上はホテル暮らし。海外出張だとひとつき以上戻ってこないこともあって、ほとんど単身赴任みたいなものだったらしい。

そして息子である蒼くんも弟の青司くんも、サッカーの才能を買われて、中学からサッカーの強豪校に入学して寮に入ってしまった。夏休みも冬休みも毎日練習で、まったく家には帰ってこなくてすごくさびしい思いをしたって。

なんだかひとごととは思えなかった。
家の中にぽつんとひとり残される寂しさ、それをあたしは身をもって知っているから。

でも、今はいつも蒼くんが一緒にいてくれる。それがすごくうれしい。
だからたまの休日にはお母さんのところに戻ってあげてほしいって、そう思う。

いつかあたしが娘として蒼くんのお母さんのそばにいてあげられたらなあ、なんて、実はひそかに思っていたりして。
も、もちろん、将来の話だけど。

「美紅ちゃーん、ナニ赤くなってんの?エロ妄想でもしてた?」
「し、してるわけないでしょ!昼間から」
「おお、では夜はしていると」
「してません!」

いきなりとんでもないことを言われてあたしの思考は中断した。声の主はすみれちゃんだ。
すみれちゃんは楽しい子で大好きだけど、すぐこういうことを言ってあたしをからかう。
なんか、杏に似てるなあ。性格もさばさばしているし。

「あはは、相変わらず可愛いねえ、美紅は」

うん、絶対似てる。ちょっとオヤジっぽいところとか。

「ところでどこ行く?もうプレゼントの目星はついてんの?」
「ううん、まだ」

そう、今日の買い物のメインの目的はちょうど一週間後に迫った蒼くんの誕生日プレゼントを選ぶため。
だれか一緒に行ってくれる人いないかな、と思ってたら、すみれちゃんがランチに誘ってくれた。中華レストランの飲茶食べ放題。一人より二人のほうがたくさんの種類を食べられるからって。
じゃあ、プレゼント選びも付き合ってくれる?って言ったら快くOKしてくれた。

よかった、あたし、一人で買い物すると店員さんとやりとりするのが下手で、結局なにも買えずに帰ってきてしまったりするから、わりとずうずうしい、じゃなくて、気軽になんでも質問してくれるすみれちゃんが一緒だと心強い。

「美紅は誕生日プレゼント、なにもらったの?」
「これ」

あたしは右手の中指に嵌っているローズクォーツの指輪を見せた。
いちど、左手の薬指に嵌めてくれた婚約の証だってことは、蒼くんとあたし、ふたりだけの秘密。

「かわいい指輪だね。そうだ、いっそ美紅も指輪にしたら、彼氏へのプレゼント」
「え、男の人って指輪するの?結婚指輪以外に」
「するよ、ふつうに、お洒落で」
「へえ、そうなの・・・」

知らなかった。

「アメリカとかだとカレッジリングとか一般的だし、うちの大学の男子でも付けてる人わりに多いよ。気づかなかった?」
「うん」
「入学以来、彼しか見えてないってわけか」
「うん、そうかもしれない」
「こっ、こいつ、ナチュラルに惚気たな。まあいいや、他に思いつかないなら今から見にいこうか。あたしもこの間彼にアクセサリープレゼントしたから店知ってるし」
「うん」

男の人の指輪ってどんなのだろう。やっぱり女の人のは違うのかなあ。
そんなことを思いながらあたしはお店に向かった。




麻花がなにかは、もう少しお待ちください。
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指輪と麻花2

指輪と麻花2


すみれちゃんに連れられて行ったお店はアクセサリの専門店だった。
男性用のものもあるけど、女の子用のものもたくさん置いてあって、男女どちらでも入りやすい感じ。カップルでやってきて、仲良く選んでいるお客さんも多い。

かわいいネックレスやブレスレットとかがたくさんあって、思わずそちらに目が行ってしまうけど、今日の目的は蒼くんへのプレゼント。
あたしとすみれちゃんは男性用アクセサリのコーナーに向かう。

ネックレス、ブレスレット、指輪にピアス。
思った以上にたくさんの種類があってびっくりする。
さっきのすみれちゃんの台詞じゃないけど、あたしは蒼くん以外の男の人と接することってあまりないから、男性用のアクセサリがこんなに豊富だなんて知らなかった。
蒼くんは何もつけてないしなあ。こういうのあんまり好きじゃなかったらどうしよう。

そんなことを思っていると。

「いらっしゃいませ、プレゼントをお探しですか?」

店員さんに声をかけられた。
20代半ばくらいの男の人で、蒼くんよりちょっと年上かな。
もちろんアクセサリを売っているお店の人だから、ネックレスも指輪もしているけど、思ったよりずっと上品な感じだった。
あたし、装飾品を付けている男の人って、もっとちゃらちゃらしていると思ってた。ちょっと反省。

「あ、はい」

うう、でも緊張するなあ。やっぱりセールストークについていくのは苦手だ。

「指輪、よく似合ってらっしゃいますね」
「どうもありがとうございます。これ彼にプレゼントされたものなんです」
「そうだったんですか」

誕生日に蒼くんにもらったローズクォーツの指輪。プレゼントだからっていうことだけじゃなくて、デザインもかわいくてとても気に入っている、それをお店の人に褒められるのはとてもうれしかった。それに、ちょっと緊張もほぐれてきたみたい。

「実はそれ、うちの商品なんです」
「え?そうなんですか?!」

びっくりした。じゃあ、もしかしたら蒼くんもここのお店にきたのかな。

「ええ、限定3本だったのでもうすべて売れてしまいましたが。ここでまた再会できるのは店主としてとても光栄です、気に入ってくださったんですね。ありがとうございます」

この人、店員さんじゃなくて店主さんだったのか。若いのにすごいなあ。
それに自分のお店の商品にとても愛着と誇りを持っているのがよくわかる。
やっぱりプレゼントはここで選ぼう。

「はい、この指輪、とても気に入ってます。だから今度はあたしが彼にプレゼントしたくて。来週、彼の誕生日ですし」

そう言うと店主さんはうれしそうに微笑んだ。

「それはそれは、どうもありがとうございます。どのようなものをお探しですか」
「いえ、まだ具体的には。でも指輪もらったから、やっぱり彼にも指輪がいいのかな、とか」
「そうですね。でしたらこちらなどいかがですか?」

店主さんが出してきたのは、シルバーの台にオーバルシェイプの青い石が入ったリング。
台には透かし模様が入っている、そして、ちょっとあたしのリングに似てる。

「きれいな石。なんですか?サファイアじゃないですよね」
「はい、当店では宝石は扱っておりません。あくまでお手ごろな値段で買える普段使いのアクセサリのみを販売しております。いつでも気軽に付けていただきたいので。こちらはブルースピネルという天然石を使用しています。免疫力を高め、新しいエネルギーを生み出すパワーを持っているとされています」

新しいエネルギー、なんか、いいかも。
店主さんはさらに言葉を続ける。

「実はこれ、お客様がいま付けてらっしゃる指輪と同じメーカーのものなんですよ。ペアリングではないですが、雰囲気が似ているでしょう。台の透かし模様、お客様のリングは女性用で薔薇ですが、こちら男性用はアラベスク模様になっています」

そうか、それで似てるのか。きっと一緒のときに付けるリングってことで薦めてくれたんだ。


指輪と麻花3

指輪と麻花3


「じゃあ、これにします」
「どうもありがとうございます。サイズはいかがいたしましょう。一般的には15か17ですが」
「すみません、最初から指輪って決めてたわけじゃないんで、よく知らないんです。男の人としては細いほうだと思いますけど」
「では、15で。サイズはいつでもお直しできますので、合わないときはお持ちください。包装してまいりますので、しばらくお待ちください」

「美紅、ちゃんと自分で対応できるじゃん。あたしべつにいらなかったんじゃない」

すみれちゃんが話しかけてきた。

「ううん、そんなことない。ひとりでお店に入るのって勇気いるし。それに今日はたまたま店主さんが話しやすい人だったから」
「まあそうだね。あたしが前来たときはいなかったよ、美紅、ツイてるね」
「うん」

「お待たせしました」

ペーパーバッグを手に店主さんが戻ってきた。
それを受け取ってお店を出る。

蒼くん、喜んでくれるかな・・・。



買い物のあとはすみれちゃんお待ちかねの昼食タイム。
少し早めに来たから、待たされることもなくすぐに座れた。
食べ放題ってすぐにおなかが一杯になってしまうことが多いし、時間制限もあって慌しいから、あたしはあまり好きじゃないんだけど、点心なら軽いからたくさん食べられそう。
あたしもすみれちゃんもしばらくは食べることに専念する。

「ふう、けっこう食べたね。そろそろ元がとれたかな」
「うん」

すみれちゃんのことばに頷く。うーん、ちょっと食べすぎたかな。夕食セーブしないと太りそう。

「残り30分弱か。じゃあそろそろデザート系いく?」

うう、この誘惑には弱い。いいや、夕食抜こうかな。
などと思いながら、結局デザートに杏仁豆腐も取ってきてしまった。

「美紅、彼と付き合ってどのくらいになるんだっけ」

マンゴープリンを食べながら、すみれちゃんが話しかけてきた。不思議に甘いものを食べるとおしゃべりしたくなる。まあ、おなかいっぱいってこともあるけど。

「ええと、1年と少し」
「今でもすっごいラブラブだよねえ。うらやましいくらい」
「そ、そうかな」

蒼くんのほうはわからないけど、あたしは確かに今でも、というか、付き合った当初よりも、もっと好きになってると思う。ときどきしつこいって思われてないかって気になったりする。

「指輪でよかったのかな、プレゼント」

思わずつぶやいてしまった。ほとんどひとりごとに近かったんだけど、すみれちゃんが顔を上げた。

「なんで?気に入って買ったんでしょ」
「うん、そうだけど。指輪って重くない?彼のこと縛ろうとしてるって思われないかなあ」
「美紅、あんたはどうだったの。その指輪、重くていや?」
「ううん、そんなことない」

あたしはあわててかぶりを振った。

「そうだよね。いやだったら彼のいないところまでしてこないだろうし」
「うん、でも、男の人って縛られるのっていやなんじゃないかなあ、とか、ちょっと気になって」

すみれちゃんは、プリンを食べる手を止めてあたしをじっと見た。そして、大きくため息をついた。
な、なんで?あたしなにか変なこと言ったっけ?




指輪と麻花4

指輪と麻花4


「美紅がオトコに免疫がないってのは知ってたけど、あんたほんとにわかってないね」
「え?なにを」
「あのね、大概の男は好きな女に縛られたいと思ってるもんなんだよ」
「そうなの?男の人って干渉されるのとかいやなものなのかって思ってた」
「オレは縛られたくない、なんて言ってる奴もいるけどね。それは縛られてる縄を解いて、また捕まえてもらいたいって気持ちの表れだよ」
「ええっ!?」

い、意外すぎる。本当かな。

「そんなこと言う男に限って、縄ほどいても捕まえてくれなくなったらどうしていいかわからなくなって途方にくれるもんだよ。そもそも本当に縛られたくないなら、特定の彼女とかつくらないって」

・・・本当に縛られたくないなら特定の彼女はつくらない

一度ちょっと話したことのある蒼くんの友達を思い出した。
藍崎さん、とかいったっけ。モデルとか俳優みたいな完璧な容姿をしていて、会話もそつがなくて、ものすごくもてそうな感じだったけど。
(藍崎は、女の子はみんな可愛いから特定の彼女は作らないんだって。不公平になるからとか、俺には理解不能だな)
蒼くんがそう言ってた。あのときは「そういうものかな」と思って聞き流していたけど、誰にでも公平に優しい、それは誰にも特別な感情を抱いていない、ということなのかもしれない。

「あんたの彼氏と話したことはないけど、たぶん彼は美紅に縛ってほしいと思ってると思うよ、あ、もちろん変な意味じゃなくてね」
「すみれちゃん・・・」
「あはは、ごめん。でも真面目な話、好きな子に愛されてるかどうかって、いつも不安なんじゃないかと思う。あんたの彼、全身全霊であんたのこと愛してるって感じだし。だから少しくらい縛ってあげたほうが彼安心するよ、もちろんやりすぎは禁物だけどさ」

好きな人に愛されてるかどうか、それはあたしもいつも不安だ。
今は好きでいてくれても、この先何年も気持ちが変わらずにいてくれるんだろうか。
蒼くんを信じてないわけじゃない、でも。

「ところでさ、彼氏にはちゃんと話したの、あんたの今後のこと」

どきっとした。

「ううん。まだ決まった話じゃないから」
「決まる前に話したほうがいいと思うけどね」
「そう、なのかなあ」

そうなのかもしれない。でも、あたしはきっと怖いんだ。

「大丈夫だって。相当ショック受けるだろうけど、きちんと応援してくれるよ。だってそのために大学に入ったんでしょ」

そう、だけど。
あのときは想像もしてなかった、こんなに好きな人ができるなんて。
離れたくない、誰にも彼を取られたくない。

「あ、そろそろ時間だ。出ないと」

食べ放題の制限時間まであと10分足らずだ。急いでデザートを食べ終えて席を立つ。

あたしは先に自分の分の支払いを済ませて、外ですみれちゃんを待った。
しばらくしてお店から出てきたすみれちゃんは、

「はい、美紅。これプレゼント」

そう言って、レジ袋を投げた。わ、なんだろ、あわててキャッチする。
中をあけてみるとお菓子が入っていた。

「麻花(マーホァ)?」

縄をよったような形の中国の揚げ菓子で、ちょっと日本のかりんとうに似ている。

「どうもありがとう」

でも、なんでプレゼントしてくれたんだろう。
そう思っているとすみれちゃんがにこっと笑った。

「それ縄のかたちでしょ。その指輪と麻花で彼氏のこときっちり縛っときな」
「すみれちゃん・・・」

心配してくれたんだ、ちょっと感動してしまう。

「じゃあ、あたしはこれで」

すみれちゃんは手を振りながら帰っていった。
どうもありがとう、あたしも手を振り返しながら、もういちど心の中でお礼を言った。

そのとき、メールの着信音がした。蒼くんだ。

“今東京駅に着きました。これから帰ります。PS・明日休みじゃないけど、来てくれる?”

蒼くん・・・。
幸せすぎて胸が締め付けられる。

“はい、わかりました。気をつけて帰ってきてね”

メールを返して携帯を閉じる。

蒼くん、本当に縛ってもいいの?
絶対にほかのひとのところには行かないで。あたしのことずっと好きでいて。
そう言っても、いい?

指輪と麻花をぎゅっと抱きかかえるようにして、あたしは小さくつぶやいていた。



END



一応ここで終わりです。
蒼くんの誕生日は、書くかどうかまだ決めてないです。
なにかしらのカウントダウンが始まってるという感じですね、思わせぶりですいません。

指輪と麻花  Next Day

指輪買った次の日、「指輪と麻花」の追記的な話です。


指輪と麻花  Next Day

5月6日、金曜日。

ゴールデンウィークの後半、休日と土曜日に挟まれた平日。

3連休最終日の昨日、蒼くんが実家から戻ってきた。
たった3日だけど、離れているのはやっぱりさびしくて、だからメールで呼び出されたときはとってもうれしかった。
蒼くんも同じ気持ちだったんだなあ、って思ったから。

昨日はそのまま蒼くんのところに泊まった。
ここは大学まで歩いてすぐのところで、家から電車で通うのに比べて、ずっと遅い時間に出ても余裕で一限目に間に合う。
だから、そんなに早く起きる必要はないんだけど、やっぱりいつもの時間に目が覚めてしまった。

あたしは寝る時間に関わらず、わりと決まった時間に目が覚めるほうだ。でも、夜更かしした日の夜は早く眠くなってしまう。受験勉強のときはそれで苦労したなあ・・・。
でも、大学受かってよかった。
だって、もし落ちてたら。
ほかの大学に行ってたら。
あたしはまだぐっすり眠っている大好きな人を見つめた。
・・・蒼くんと会えなかった。

蒼くんと会うまで、あたしはどっちかというと男の人が、というより、同じくらいの年の男の子が苦手だった。

あたしの通っていた高校は共学で、進学校だったけど、やっぱり彼氏とか彼女は欲しいと思っている子が大半だ。それなりの成績を取っていれば推薦っていう手もあるし、高校生活には潤いが欲しいってことなんだろう、あたしはそうでもなかったけど。
男女比は男子が三分の二くらい、だから女子っていうだけでもてる。
だけどなんだか、みんな椅子取りゲームにあぶれたくない。そんな感じにしかみえなかった。
あたしも恋愛に関心がなかったわけじゃない。
恋に対する憧れは常にあった。でも、彼氏が欲しいっていうのはなんだか違う気がした。
でも、どうして違う気がするのか、当時はわからなかった。


女子が少ない学校だといっても、顔立ちや成績が良くて運動ができる男子はやっぱりもてる。高1のときにあたしに声をかけてきたのは、そういうタイプの子だった。
背が高くて、さらさらの髪のバスケ部のホープ。

嫌いではなかった。
でも、クラスが違うし、彼のことを何にも知らなかったから好きかどうかなんてわからない。
友達に相談したら
「とりあえず付き合ってみたら?そのうちに好きになるんじゃないの?だって彼いけてんじゃん、あたしが代わりたいくらい」
って言われた。
そんなもんなんだろうか。

納得できたわけじゃなかったけど、アドバイスにしたがって付き合ってみることにした。
その気になったのは、同じ中学出身で親友の紫穂が、高校に入ってすぐに2つ年上の先輩と付き合い出して、すごく楽しそうだったから。
そしてたぶん、紫穂がいなくてさびしかったから。
あたしも紫穂みたいに楽しいかなあと思ったから。

そうはならなかった。
彼とは3週間もたなかった。



別れた理由は彼のある発言が許せなかったってことだけど。
今思えばそんなことはきっかけにすぎなかった。彼は誤解だって言っていたし、十分話し合えば解決できることだったと思う。

今ならわかる。
本当の理由は、あたしが彼を好きじゃなかったからだ。
好きかどうかもわからないのに「彼氏」という存在に興味があって、付き合い始めた。
後悔したし、もうそんなことはしたくなかった。
欲しいのは「彼氏」じゃなくて「好きな人」だ、とそのとき初めてわかった。
それから、何度か付き合いを申し込まれたけど、結局誰とも付き合うことなくあたしは高校を卒業した。どの人も「好き」だとは思えなかったから。
あたしには永遠に好きな人なんてできないんじゃないか。そんなあきらめに似た気持ちになりかけていた。

だけど。

「ん・・・」

蒼くんが、目を覚ました。目と目が合う。
きれいな目をしてるなあ、初めて会ったときもそう思ったけど、今でもその印象は変わらない。

「おはよう蒼くん」

そう言って彼に微笑みかけると、とびきりの笑顔で応えてくれた。
その笑顔が大好き、ううん、どんな顔をしててもやっぱり好き。

「おはよう、いい朝だね」
「うふふ、朝から講義あるけどね。眠くない?」
「眠いけど・・・」

言いながら、蒼くんはあたしの体を引き寄せた。

「でも、せっかく美紅がそばにいてくれるのに、眠ってたりしたら勿体ない」

抱きしめられると幸福感が体中に満ちてくる。
いつまでもこのままでいられたらいいのに。
でも・・・。

「美紅?」
「なに・・・」
「どうかした?」
「ううん、どうして?」
「なんとなく、さびしそうに見えたから」
「そんなことないよ」

そう、今はさびしくなんかない。
今は・・・。

「蒼くん」
「なに?」
「明日お休みだし、今日もここに泊まっていい?」

蒼くんがにっこりする。

「俺はずっとここにいてほしい」

(決まる前に話したほうがいいと思うけどね)

わかってる、でも。
もう少しこのままでいたい・・・

もう少し・・・。


END




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