お題創作の春企画が始まりました(お知らせ)

こんにちは

もう3月も半ば近くとなりました。
でも、まだまだ寒いですね。昨日は関東で雪が降ったようですし、大阪も今日はお天気こそよいものの北風が吹きつけてきてとっても冷たいです。
「春よこい!」
・・・ということで。

日頃からお世話になっております 神楽崎ゆうさん が管理人をつとめておられるコミュニュティ「物語は素晴らしい」で、春にちなんだ素敵企画が始動してます。
詳しくは↓

(ここより引用)

【春企画】 Blue×Spring 【お題物語】

青春(せいしゅん)とは、季節の「春」を示す言葉である。


ということで、お待たせしました!!!
管理人主催でコミュニティ第2弾!!【企画物語】(お題小説)をやろうと思います♪

● テーマ ●
 「 別れ 」「 出逢い 」

※「別れ」「出逢い(出会い)」にちなんだ作品を書いてください。
※今回はテーマが2つあります。「別れ」や「出逢い」(どちらかひとつ)のテーマ設定でも良いし、2つ両方の内容が入っていても構いません。


● 募集期間 ●
3月5日 ~ 5月5日 (GW最終日まで)

3月から卒業式の季節になりました。旅立ちと一緒に多くの「別れ」があります。
またそれと同時に4月、新たな出逢いも待っているはずです。
ということで今回は2つのテーマを設けさせていただきました。
(そして執筆猶予として投稿期間にGWを入れさせていただきましたw)


● 対象作品 ●
「別れ」「出逢い」(片方、または両方)の内容が入っている作品
・小説 (1話完結、連作もの)
・詩
・短歌・俳句
・歌詞

※「第2章」「5話」など連載しているものの途中1話だけでも構いません。
※期間中に執筆した作品が望ましいですが、1年前までに載せた作品ならOK。
※ひとり何作品あげてもOK!


● 書き込み事項 ●
・作品タイトル
・http:// (作品をUPしたURL)
・(他、あらすじやコメントなどあれば)


● 備考 ●
前回と同じく“「別れ」「出逢い」が内容の作品”の判断基準は、あくまで執筆者の思いにゆだねます。
自分のブログ(物語)を読んでもらう機会として、どしどし参加(書き込み)してください。

(最後に管理人が全作品をまとめるかどうかは(投稿作品数によって)考えさせていただきます)


● ちょっとしたお願い ●
コミュニティ内企画ということで、コミュに参加してない方は知りえない企画になっています・・・。
なのでこの企画に少しでも興味を持たれた方、参加される方は
ぜひ企画要項をブログ記事に載せていただけると嬉しいです!
それを見てコミュを知る人や、企画を知って多くの物語が生まれることを期待しております(o^-^o)
(わたしにとってはそれが「出逢い」ですw)



多くの投稿作品をお待ちしております!!

(引用ここまで)



以前、このお題創作で「秋企画」というのが立てられて、素敵作品がたくさん寄せられました。
私も参加させていただき、とても楽しかったです。
すでに、数本、素敵な作品が投稿されています。
ぜひ、ご参加ください。
私もできたら参加したい、と思ってます。
(うちのブログ、まだ年があけていないという体たらくですが、締切りまではまだ間があるし、頑張ります!)
閲覧は自由ですので、読みにくるだけでも楽しめますよ。
素晴らしい作品に出会えることを、私も楽しみにしています。
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春企画で捧げ物

こんばんは
やっと、少々復活してきた水聖です。ご心配かけてすみません。
久々に小説更新。

今回は「春企画」の「別れ」のテーマで書きました。
実は、この小説、水聖がひそかに通いつめている素敵イラストブログ 「日々精進」 のkiyonさんへの捧げ物です。

片思いな恋・・切なくて。というタイトルで、2月24日付のイラストがあまりに素敵だったので、思わずあつかましく「文つけていいでしょうか?」とお尋ねしたところ、快く許可してくださったので、書かせていただきました。
イラストの美しさには到底及びませんけれども。




卒業


「蛍の光」と拍手に見送られ、卒業生が校門を後にしてから、小一時間が経った。
在校生たちも、あらかた帰ってしまい、すでにここ、2年C組の教室はがらんとしている。

なのに・・・。

窓際の机の上に置かれた紺色の通学バッグ。
あいつは、まだ、戻ってこない。

一体どこで何してるんだ?
そう思ったとき、教室の扉が開いた。
戻ってきた?!
だけど、入ってきたのはオレの待ち人ではなく、くたびれた中年男。担任の数学教師だった。

「なんだ、まだいたのか。戸締りするから早く帰れ」

仕方ない・・・。
オレは自分とあいつ、ふたつの通学バックを肩に下げ、追い立てられるように教室を出た。


校舎を出てすぐに、見慣れた後ろ姿が目に入った。

一時間前に、卒業生たちが通っていった花道。
その片隅に、あいつはぼんやりと佇んでいた。

「教室、もう閉めるっていうから、バッグ持ってきたぞ」

後ろから声をかけると、

「うん、どうもありがと」

あいつは前を向いたまま答えた。

「行っちゃった・・・」

消え入るような声、胸の奥が痛んだ。

「ボタン、もらったか?」

あいつは、やっぱり前を向いたまま、かぶりを振った。

「言えないよ、そんなこと・・・」
「そうか・・・」

ほんの少し、ほっとしてしまったことで、自己嫌悪に陥る。あいつの思いを知ったときに「応援する」なんて心にもないことを言ってしまったときのなんともいえない気持ちを思い出してしまった。

「元気出せよ、何ならオレのボタン、全部やるから」
「やあだ、何言ってんの?」
「だよな、オレのボタンじゃ貰ってもしょうがないな」
「じゃなくて、明日からどうすんの?まだ学校あるのに、先生に怒られちゃうじゃない」

そんなこと構わない。
お前が喜ぶなら。
でも、やっぱり、オレのボタンじゃ駄目なんだろうな。

「でも、ありがと。いつも優しいね」

ああ・・・。
だけど、「誰にでも」優しいわけじゃないんだぜ。

カバンを置いて、細い肩にそっと手をかける。
かすかな震えが、指先を通じて伝わってくるのがわかった。

「寒いのか?」
「うん、少しだけど」

わかってる。本当は。
この肩が震えている理由は、寒いからじゃなくて、泣いているからだって。
どうしようもなくて、どうしたらいいのかわからなくて。
気づいたら、お前を後ろから抱きしめていた。
忘れちまえよ、もう会えない奴のことなんか。
そう思って、だけど。

「あったかい。小さいころも、寒くなるとこうやって身を寄せ合ってたよね。なつかしい」

何気ないお前の言葉に、胸が抉られる気がした。

思いを込めて抱きしめても、伝わらないキモチ。
確かに、ガキの頃はそうやってあったまった、なつかしい思い出といえなくもない。
けれど。
オレたちはもうガキじゃない。ガキのままではいられない。
それは、今お前の頬に伝わる涙が証明してるだろ。

振り向いてほしい。
オレを見てほしい。

願いはお前の胸には届かない。
お前はきっと振り向かない。なぜなら。
お前の目線の先にあるのは、お前の思いに気づくことなく花道を去っていった奴だから。

それでも

せめてぬくもりだけでも伝えたい。それだけでも。

そう願いながら
木々の間から早春の日差しが差し込む校庭で、
オレはずっとお前の背中を抱きしめ続けていた。





男の子目線にて、せつない片思い、です。
3月は別れのシーズンですね、みなさんの中にもせつない別れを経験した方がいらっしゃるでしょうか。
kiyonさん、執筆許可ありがとうございます。
企画の期間中に「出会い」も書けるといいなあ。
連載、はい、連載も頑張ります。クリスマスが夏にずれ込むなんて事態だけは回避したい・・・。

アイデンティティ PART1 容姿

春企画、2作目。
これは、秋企画で書いた「新学期」の後日談です。
「新学期」の主人公、竜登の親友、金髪で緑の目の日本人「和人」の話。
「新学期」の続きではなく、和人の生い立ちから始まります。



アイデンティティ


PART1 容姿

オレには3つの国籍と3つの名前がある。
なぜかというと、オレはアメリカ生まれで、父親が日本人、母親がドイツ人だから。
ドイツ名は ラルフ・ヴィルヘルム・バックハウス
アメリカ名は ラルフ・カズト・モリカワ
そして、日本名は 森川和人。

3つの国の3つの名前、でもオレはひとりしかいない。
時々思う。
オレはいったいなんて名前で、なに人なんだろう。

オレが生まれたのはアメリカ合衆国、イリノイ州、シカゴ。
米国第3位の大都市だ。

でも、オレにここの記憶はまったくない。
オレの父親は米国の企業に勤めているが、オレが1歳になる前に日本に転勤になった。
そして、オレは1歳から6歳までを日本で過ごすことになる。

だから・・・
オレが最初に覚えた言葉は日本語だった。


日本は安全で快適な国だ。文化程度も高い。
でも、オレにとって快適とは言い難いことがひとつ。
日本は極東の島国で、移民の受け入れにも積極的ではない。だから「日本人」=東アジア系という図式が出来上がってしまっている。

ここで問題になるのがオレの「見かけ」
オレの母親はドイツ人、レースはコーカソイドでゲルマン系。ヨーロッパ民族の中でもことに金髪碧眼が多い。
当然、オレの母親も金髪だったし、眼の色は緑色だ。そして、オレはどこから見ても母親似だったから、一般の日本人にとってオレは「外人の子」だった。

オレの顔を見ると、皆一様に困ったような表情で英語らしきもので話しかけてくる。
「日本語で話して」
と言うと、ほっとしたような照れ笑いを浮かべて「日本語できるんだ、すごいねえ」と言われる。日本に住んでる日本人なんだから当たり前だろ。と、思うんだけど、金髪で緑の目だったりすると、日本人だと認めてもらえないらしい。
こういうのなんて言うんだろう「疎外感」かな。
とにかく、そういう状況の中でオレは幼少期を過ごしたわけだ。


でも、少々の疎外感はあっても、オレは日本でそれなりに快適に暮らしてきた。
6歳の誕生日のころには、簡単な漢字くらいなら読めるようになっていて、これで小学校に上がっても大丈夫、絶対「外人」なんて言わせない。そう思ってオレは入学の日を心待ちにしていた。

けれど、オレは結局「小学生」になれなかった。
父さんのアメリカへの再度の転勤が決まったのは、オレが6歳の春。
小学校入学をひと月後に控えた、3月のはじめのことだった。


父さんの転勤先は、マサチューセッツ州、ボストン。隣のケンブリッジには、世界一有名といってもいいハーバード大がある、教育機関の多い町だ。
ここは人口の50%以上がヨーロピアンだったから、オレの見かけは珍しくもなんともない。ごく普通の子供だから、町を歩いていてもじろじろ見られる、なんてことはない。
自分の容姿が目立たないことが、なんだか不思議で新鮮だった。
かくして、日本にいたころ、オレを悩ませていた問題はあっさり解決した。

だが、代わりにもっと大きな問題が待ち構えていた。
アメリカで生まれた子供は、自動的にアメリカ市民になる、だからオレはアメリカ人だ。だけど、1歳で日本に渡ったオレは英語が全くできなかった。



今現在は不自由なく英語を使いこなしている彼にも辛い過去がww
顔で喋るわけじゃないですしね。
子供の世界も大変です。

アイデンティティ Part2 言語

Part2 言語

両親の母国語が違う場合、子供は自然に両方の言語を覚える。
オレの場合、使用頻度が多いのは日本語だから日本語のほうが得意だけど、母親が普段オレに話しかけるときはドイツ語なので、ドイツ語なら一般的な会話は出来る。

英語は、そのどっちでもない。
実は両親の間で交わされる会話は英語だったのだけど、オレに関係ない話だから全く関心がなくてロクに聞いてない。「英語」はオレにとって覚える必要のない言葉として素通りされていたのだった。

自分たちの息子は英語が喋れない。
これは両親にとって盲点だったらしい。
自分たちが普段英語で会話していたものだから、当然オレも英語を理解しているものだと思い込んでいた、呑気なものだ。

オレのあまりの英語力のなさに慌てた両親はいきなり英語の特訓を始めた。
家でも英語以外の言語は禁止。日本語で話しかけようがドイツ語で話しかけようが、英語でしか答えてくれない。しかも英語で話すことを強要される。
確かに今更日本に戻れない以上、何がなんでも早急に英語を身につける必要があったし、そのためには仕方のないことだったとは思うけど、言葉を奪われたも同然だったあのころの辛さは今でも忘れられない。

ヨーロッパ系の多いこの地に来て、オレは疎外感からは解放された。
しかし、かわりに言葉の壁にぶつかり今度は圧倒的な「孤独感」に苛まれる結果になった。

まあ、そのおかげでか、まだ幼かったからか、オレは半年で言葉をクリアし、ESLからも卒業できたのだけれども。

そして。
それから3年あまりの月日が流れ、英語にもボストンの生活にもすっかり慣れたころ、オレはまた引っ越すことになる。
ただし、今度はアメリカ国内だから、いくぶん気楽だった。

引越し先はカリフォルニア州ロサンゼルス。
移民の国アメリカでもことに様々な人種が暮らしている、俗に「人種のサラダボウル」とも呼ばれている全米2位の大都市。

どんなことが待ち受けているのだろうか。
期待といくばくかの不安を抱え、オレは4th greaderの新学期を新しい土地で迎えることになった。


転校した先のエレメンタリーでは、すでに新学期がスタートしていた。
スクールオフィスで転入手続を済ませ、新しい教室に入る。
クラスルームまで送ってきてくれた母さんに手を振って、オレは担任のミセス・コーエンに促されるまま、自己紹介を始めた。

名前はラルフの方を使った。「カズト」はzuの発音が結構難しいし、アメリカ人にとっては馴染みのない名前だから、聞き返されるのが面倒だったからだ。

前に住んでいたボストンについて、いろいろと話しながら、クラスメート達を観察する。ヨーロピアンは3割ほど、ヒスパニックが4割、アフリカンが1割ってところか。あとはアジアやアラブ、インド系など、さすがにバラエティに富んでいる。
ほとんどは転校生のオレに興味津々の様子で熱心に聴いてくれているけど、その中に3人だけ、オレのほうを見ていないクラスメートがいた。



はあ、やっとこさ「新学期」の時点まで戻ってきました。
イケメンの転校生に関心がないのは、あの3人ですね。

アイデンティティ Part3 邂逅

Part3 邂逅

転校生のオレに関心のない3人の級友。ひとりは明らかに東アジア系の男子。チャイニーズかコリアンってところだろう。なかなか整った顔立ちだが、虫の居所が悪いのか、不機嫌そうな表情で窓の外を眺めている。

二人目は小麦色の肌をした、インド系の女子。くっきりとした顔立ちで、かなりの美少女だ。彼女はさっきから、気遣わしげに例の東アジア系の男子のほうばかり見ている。

最後の一人は赤毛のヨーロピアンの男子。体格がいいが、失礼ながらお世辞にも賢そうには見えない。粗暴な性格が目付きに現れていて、出来ればあまりお近づきにはなりたくないタイプだ。こいつはずっとインド系の美少女を見ているのだが、時折、アジア系の男子を忌々しげに睨みつけている。

なるほどね。大体の構図が見えてきた。
しかし、美少女とバカはわかりやすいが、アジア人のイケメンは何が原因であんなに不機嫌なんだろう。そのことが妙に気にかかるのは彼が「日本」を思い起こさせる容貌をしているからなのかもしれない。



昼休み、オレは情報収集に取り組むことにした。

洋の東西を問わず、女子はお喋り好きで、その情報網は侮れない。とはいえ、私見をあまり交えずに正確な情報を伝えてくれる人物はなかなかいない。

その中にあまり喋らずに聞き役に専念している子がいた。自分がやたらと喋りたがる子は大概人の話は聞いてないから、あまり役に立たない。
オレは彼女、ソフィアに話を聞くことにした。

しばらく当たり障りの無い世間話をしてから、本題に入る。

「・・・ところで、あのアジア系の男子だけど、いつもあんなふうな感じなの?」

彼はオレたちとは離れた場所で、たったひとりでつまらなそうにサンドイッチを食べていた。

「ああ、ルークね。ええ、いつもああなの。とはいっても入ってきたばかりだから、まだクラスに馴染めないのかも」

へえ、あいつも転校生だったのか。

「ルークっていうのか」
「ううん、本当は違う名前らしいんだけど、難しい名前で発音できないし憶えられないからって、ミセス・コーエンがつけた名前なの」

うん、チャイニーズかコリアンかわからないけど、アジア系の名前は憶えにくいから、英語名を通称にすることはよくある。

「シャイなのかな、それともスタバーンとか」
「わからないわ、でもみんな彼に興味はあるの、あ、ほら」

ソフィアに促されルークのほうを見ると、ちょうど彼の隣りに例のインド系の美少女が座るところだった。

「今座った子、ヴェーラっていうんだけどね、ルークは転校して来た日に彼女が階段から落ちそうになったのを助けたの」
「へえ、すごいな」
「ええ、かっこよかったわよ。階段を降りようとして躓いたヴェーラを左手で支えて、自分が落ちないように右手で手すり握って。もう大拍手」

そりゃそうだろうな。
しかし、だったら彼はヒーローだ。ヒロインのヴェーラが彼に惚れるのは当然として、ますます彼の不機嫌の理由がわからない。

ん、でも、ヴェーラとは結構楽しそうに話しているみたいだな。まあ、そのうちにクラスにも馴染んでくるだろう、オレも折を見て話しかけてみよう。
そう思っていた矢先に事件は起こった。



続きです、遅くなってすみません。そして展開も遅くてすみません。

アイデンティティ Part4 邂逅2

アイデンティティ Part4 邂逅2


なんとなくいいムードになりかかっているヴェーラとルーク。
でも、そのことを快く思っていない人物がひとり。言わずと知れた粗暴そうな赤毛のバカだ。何かしでかさなければいいが、と気がかりに思っていた時、突然赤毛の右手が閃き、何かをルークに向かって投げつけた。
次の瞬間、ルークが立ち上がった。

「痛えな、何しやがる!」

カフェテリア中に響き渡る声。
今まで喋らなかった彼の剣幕に、場は水を打ったように静まった。

「もう、チャドったら、また・・・」

隣りでソフィアが小さくつぶやいたのが聞こえたが、オレは彼の使った言葉に衝撃を受けていた。
日本語、だった。

彼の不機嫌の理由、それが一瞬で理解できた。
ここにいるのは3年半前のオレだ。
親の都合で友人たちと引き離されて、言葉すらわからない世界に突然放りこまれ、どうしようもない孤独と意思を伝えられない焦燥感に絶望していた。

英語の通称じゃなく、彼の本名が知りたい。
彼の話を聞きたい。
いてもたってもいられず、オレは彼の元に駆け寄った。

「お前、日本人か?」

日本語で話しかけると、彼は大きく目を見開いた。信じられない、という表情で、物を投げつけられた怒りも忘れてしまったようだった。

「お前、日本語出来るのか?」

何かなつかしい質問だな。

「ああ、オレの父さん、日本人だもん」

彼はさらに大きく目を見開いた。

「マジで?その顔で、日本人?!」

うわ、この返しもなつかしい。ここだけ日本が戻ってきた気分だ。

「お前、名前は?」

そう質問してみる。

「榊原竜登」

りゅうと、そりゃ確かに憶えられないし発音できないだろうな。Ryutoじゃなんと読むのか英語圏の人間にはまずわかるまい。

「りゅうと、か。漢字は?」
「漢字わかるのか?」
「うん、まあ、一応。言ったろ、どんな顔していようがオレは日本人だって。で、漢字は?」
「ドラゴンの竜に、山に登る、の登」
「登竜門かあ、かっこいいじゃん」
「とうりゅうもん?」
「知らないのか?あれだよ、鯉が川を溯ると竜になるって中国の伝説。こいのぼりで有名だろ」

ちょっと得意な気分で、オレはルーク、じゃなくて竜登に説明する。
こっちに来てからも、日本語を忘れてしまうのがいやで、父さんの書斎の本を片っ端から読み漁っていたから、今でも日本語の文章には自信がある。
まあ、たまに単語を忘れていて焦ったりはするけど。


とにかく、これが竜登との出会いだった。





さぼってしまったぶん、頑張ります。たぶんそろそろ終盤。
Ryutoは「ライユートゥー」とか、そんな感じでしょうか。
りゃ、りゅ、りょ、はまず発音できないです。英語にない音なので。

拍手ありがとございます。
続きに返信です。遅くなってすみません。

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アイデンティティ Part5 風習

Part5 風習


あれから、いろんなことがあった。


乱暴者のチャドはあの事件からひとつきもたたないうちにサクラメントに引越していった。
学校を去る日、バツの悪そうな顔をして
「あのときはごめんな」
と竜登に謝りに来た。
今にして思えば、あのときすでに引越しが決まっていて、彼なりに辛かったのだろう。
住み慣れた土地を去るのはつらい、竜登もオレもそれは十分に知っているから、少しチャドに同情してしまったし、もっと仲良くしておけばよかった、とも思った。
第一印象が悪過ぎたけど、もしかしたら意外にいい奴だったのかもしれない。

竜登は、今はもうすっかりクラスに馴染んでいる。
もともと明るい性格で、ヴェーラを助けた一件からもわかるように運動神経も抜群だし、頭もいい。とくに計算が素晴らしく速くて、ミセス・コーエンはマスの授業中「エクセレント!」を連発している。悔しいが計算は絶対竜登にかなわない。
一度「なんでそんなに計算が速いんだ」って聞いてみたら「じいちゃんがソロバン塾やってたから幼稚園にあがる前からソロバンやらされてた」ということだった。
うーん、日本のソロバンってすげえ、オレもやっとけばよかった。

もちろんヴェーラともうまくいっている。
竜登がかなり英語が出来るようになったのもあるけど、ヴェーラのほうも一生懸命日本語を勉強している。将来は日本に行ってみたいとかで、ひょっとしたらこれは一生ものかな、とか密かに思っている。



そして、今は新学期から半年。学校はスプリングリセスに入った。
あと3ヶ月で4thgraderも終わる。
今日、オレは竜登の両親に誘われ、近所のバルボア・パークに花見に来ていた。

オレの両親のほうはダウンタウンに観劇に行った。子供も6歳から鑑賞可能らしいけど、オレは全然興味ないし、竜登といたほうが楽しいからこっちに乗ることにした。

バルボア・パークには大きな池があり、その周りは桜並木に囲まれている。日本で一番人気のあるソメイヨシノではないけれど、八重咲きのピンクの桜はとてもきれいだ。
アメリカ人にも人気のあるところだけれど、日本人としては、春に花見が出来るのは何よりうれしいものだ。
竜登のお父さんが見事に咲いた桜の木の下にシートを広げ、オレたちはそこに座った。ちょうど満開の時期で、日本だったら桜の下とか絶対空いてないだろうから、ちょっと得した気分だ。

お母さんが重箱に入った弁当を広げる。玉子焼き、野菜の煮物、焼き魚、ほうれん草のごま和え、と純日本風のおかずが並ぶ。それに俵型のおにぎり。ここがアメリカだということを忘れてしまいそうだ。
もちろん、アメリカ人に桜の下で弁当を食べる習慣はない。でも、こういうのを不思議とも何とも思わず、すぐに馴染んでしまうあたり、オレもやっぱり日本人ってことなのかな。

「いただきます」

そう言って、玉子焼きにかぶりつくとお母さんがにこっと笑った。
「日本食、大丈夫?」とか聞かれないのがなんとなくうれしい。

「しかし、酒が飲めないのはさびしいな」

お茶を飲みながら、つぶやいたのはお父さんだ。
日本の花見には酒が付き物だけど、アメリカは公共の場での飲酒は厳禁だから、大人には物足りないのだろう。アメリカでは人前で酔うのはとても恥ずかしいこととされていて、酔っ払いにはかなり厳しい。
まあ、子供のオレにとってはどうでもいいことだけど。

「仕方ないでしょ、ここはアメリカなんだから」

お母さんに窘められ、お父さんが肩をすくめる。
オレと竜登は顔を見合わせて、こっそり笑った。



バルボア・パークは実在します。私もいきました。
そして桜の下で弁当広げているのは全員日本人でしたw
アメリカ人にとっては不思議らしく、「宗教的な行事か?」と真顔で質問されたことがあります。
うーん、一種の宗教といえなくもない?
コノハナノサクヤビメに敬意を表して?あまり深くは考えてないですが、自然に対する畏敬の念は日本人には確かにあると思います。八百万の神の国ですしね。

アイデンティティ Part6 提案

Part6 提案


「ところで、和人くん」
「あ、はい!」

竜登のお父さんに突然話しかけられ、オレはちょっと焦った。
やばい、今笑ったのバレたかな、と思ったけど、お父さんが言ったのは全然別のことだった。

「竜登が土曜日に日本語補習校に行っているのは知っているかな」
「はい」

そう、アメリカ国籍を持つオレと違って、竜登はあくまでもアメリカに長期滞在している日本人だ。いつかは日本に帰らなきゃならない。オレにとっては寂しいことだけど、こればかりは仕方のないことだ。
そして、いつでも日本の学校に復帰できるように、竜登は土曜日をほぼまる一日使って、30マイル離れた場所にある、日本語補習校に通っている。
そこには竜登と同じ立場の子供たちがたくさんいて、オレ以外の同じ年頃の子供と日本語で会話できる、竜登にとって貴重な場所であるらしい。

「今はそっちの学校も春休み中で、日本のグレードでは4月から新学期。竜登は五年生になる」
「知ってます。小学校入学直前まで日本にいたので」

幻の小学一年生、背負うことのなかった新品のランドセル。あのときの苦い思いは今でも忘れることができない。

「そうか、それなら話は早い。もちろん和人くんがよければの話なんだが、新学期から竜登と一緒に通わないか?」

え・・・。

「実はね、あなたのご両親の了解はもうとってあるの。お父様は日本人として日本の教育を体験するのはとてもよいことだとおっしゃてたし、お母様も日本語補習校での実績はアメリカでの外国語取得のキャリアとして認められるから、今後のためにも行っておくのは有効だって賛成してくださったの」

突然のことに戸惑っていると、お母さんから意外な話を聞かされた。
うーん、もしかして今日の花見はオレにこの話をするためだったのか。

「和人くんのおうちはフリーウェイに入る前にちょうど通る場所だから、ついでといっちゃなんだけど、竜登を連れていくときに和人くんを途中でピックすればいいだけの話だし、帰りはおうちの前でドロップできるし、次の日は休日だから、いっそうちに泊まってくれてもいいし」
「ちょ、ちょっと待ってください」

オレはなんだか盛り上がっているお母さんを押しとどめた。
まだ、なんだかいろいろと整理がつかない。

「あの、日本語補習校って日本人が行くところですよね」
「まあ、基本的にはそうだけど、プライベートスクールだし、日本語を理解出来れば国籍は問わないらしいわよ。それに和人くんは日本国籍も留保してるでしょ」
「ええ、まあ。20歳になるまでは。でも、オレは見かけがこんなだし」

日本にいたときに感じていた、珍しいものを見るような視線。あの視線に晒されるたび、自分はここにいてはいけないのじゃないかと思ってきた。所詮オレは「他所者」なのだ、と。

「ああ、それなら大丈夫。竜登のクラスだけでもハーフの子は8人いるから、和人くんも全然目立たないわよ。あ、イケメンだからやっぱり目立つといえば目立つけど」

お母さんはそう行ってケラケラと笑った。

・・・イケメンて、そういう問題だろうか。
でも、なんだかこの人と話していると今まで真剣に悩んでいた自分はなんだったんだ、と思えてくる。
ちょっと、心が軽くなったような気がした。



いつものことですが「あれ、なんで終わらないの?」という世界にww
GW中に終わるのか、この話

アイデンティティPart7 発見

Part7 発見


お母さんの話はさらに続く。

「ごめんなさいね、真面目な話なのに。それで、話の続きなんだけど、さっき言ったように外国語のキャリアが目的で通っているシチズンの子も多いの。中にはあまり日本語が得意じゃない子もいるけど、みんな仲良くやってるわよ、ねえ」
「うん」

話を振られた竜登が頷く。竜登と一緒に日本の学校に行く、少し心が動いた、でも。

「今、竜登は何も困ってないんだろ、だったらオレが一緒にいる必要ないんじゃ」
「あのさあ和人、おまえ、何かゴカイしてないか?」
「誤解?」

竜登はちょっと怒ったような顔をしていた。オレ、何か悪いこと言ったっけ?

「エレメンタリーでおまえがいつも一緒にいて、通訳とかやってくれてるのは、すごく助かるし、感謝してる。でも、オレがおまえといるのは、便利で都合がいいからじゃないぜ」
「竜登・・・」
「オレが和人と一緒にいたいって思うのは、楽しいからだ。和人は違うのか、オレが英語ができなくてカワイソウだから面倒みてやってる、それだけなのかよ!」

横っ面を張り倒されたような気分だった。
そんなこと思ったことなんかない。だけど、ほんの少しだけ、オレは竜登を疑っていたのかもしれない。通訳ができる、オレは竜登の役に立っている。でも、それがなくても竜登はオレのことを友達だと思ってくれるだろうか。どこかでそう思っていた。

「竜登はオレのこと、日本人だって思ってる?」

そう聞くと、竜登は不思議そうな顔をした。

「だって日本人なんだろ」
「こんな顔でも?」
「ああ、それならもう慣れた」

は・・・、慣れたって?

「なあ、和人。オレにはよくわからないけど、ナニ人とか、そんなに重要なことなのか。べつにおまえがどこ人でも、おまえはオレの友達だろ。そりゃ最初は金髪で緑の目の日本人がいるなんてびっくりだったけどさ。そんなのすぐ気にならなくなった。オレは和人が緑の髪で金色の目でも、やっぱり友達だと思うぜ」
「緑の髪に金の目って、そんな人間実在しないだろ、どこのラノベだよ」
「モノノタトエって奴だよ。オレが言いたいのは、和人が何人でもどんな見かけでもオレは和人が好きだってこと。だから土曜日も一緒の学校行けたらいいなって思ってる、それだけ!」

そう言った竜登の目は曇りがなく真っ直ぐで。

初めて気づいた。
国籍とか容姿とか、そういうことに拘っていたのはオレのほうだった。

そうだ。オレも。
竜登がどこの国の人間でも、どんな姿をしていても、きっと友達になった。

「あの・・・」

オレは竜登の両親の方に向き直った。

「オレ、今まで日本の教育を受けたことないんですけど、それでも大丈夫ですか」
「もちろんだ。お父さんに聞いたんだが、夏目漱石を読んでいるそうじゃないか、いまどき小学生から漱石を読んでいる子なんて日本にもなかなかいないよ、感心した」
「あ、それは父の本棚の本を読んでいたからで」

と、突然お母さんが吹き出した。

「あの、何か変なこと言いました?」
「ううん、違うの、ごめんなさい。き、昨日竜登にその話したら、ナツメソーセキってなんか珍しい石?って聞かれたの思い出して。お札にもなった人なのにね」
「だって、今の千円札の人じゃないし。てか、その話和人にはナイショだって昨日約束したじゃん」
「こんなオイシイ話、黙っていられるわけないでしょ」
「かーさん、ひでえ」

竜登を肴にみんなで笑いながら、オレは空を見上げた。
抜けるようなカリフォルニアの青い空に、ピンクの桜が映える。
とても清々しい気分だった。

それはずっと探していたものが見つかったから。
オレが長い間探してきて、見つけることができなかった「自分」というもの。
それを見つけてくれたのは
榊原竜登、オレの親友。



オレが言いたいのは、和人が何人でもどんな見かけでもオレは和人が好きだってこと。
それだけ・・・。


END



なんとか企画終了に間に合いました。あとがきは明日にでも。
読んでくださったかた、ありがとうございます

アイデンティティ エピローグ サクラサク

エピローグ サクラサク


「さくら学園」
これが日本語補習校の名前だった。
補習校は土曜日だけの学校だから、自前の校舎はなく、ミドルスクールを借りている。
オレのクラスは五年だからそうでもないけど、一年生は床に足がつかなくて苦労しているらしい。

「さくら学園」という名前だけど、校庭に桜はない。
日本ではほぼどこの学校でも校庭に桜があるのにな。ほんのちょっと寂しい気持ちで、でもこれからの学校生活に期待しながら、オレは竜登と一緒に門をくぐった。

オレは5年1組、とはいっても、5年は1クラスしかない。2クラスあるのは3年生まで。やはり高学年になると勉強が難しくなることと、習い事などが忙しくなることもあり、やめてしまう子が多いらしい。
5年で入ってくる子は珍しいらしく、担任の山口先生は張り切っていた。

「今日からみなさんと一緒に勉強する、森川和人くんです」
「森川和人です、日本の学校は初めてなので、いろいろ教えてください」

先生に紹介を受けて、日本式にお辞儀をすると、教室がざわめいた。
日本語がうまいのに驚いたらしいけど、確かにハーフらしい子が数名いることもあり、さほど容姿にこだわりはないようだ、少し安心した。

「ここの席順は50音順になっています、森川君は松下さんの後ろです、松下さん!」
「はい!」

まっすぐな黒髪の可愛い女の子が手を挙げた。
お、ひょっとしてオレ、ツイてるかも。

「よろしく」

席につくときに会釈すると、松山さんが顔を上げた。

「私、松下さくら。こちらこそよろしく」

にこっと笑った松下さんの笑顔はとてもきれいだった。

さくら学園に桜の木はない。
でも
さくらみたいに可愛い子がいる。

うん
やっぱりツイてるな・・・。


END


あとがき代わりに^^
私は普段小説を書くときに特定のモデルを設定しないのですが、この話だけは全員モデルになった子がいます。
和人と竜登のキャラクターは私自身がかなりはいってますが、ちゃんとビジュアルを参考にした子がいますよ。
ヴェーラ、ソフィア、チャドもさくらも。
みんないい子でした、今どうしてるかなあ・・・。

ゴールデンウィーク

秋企画、春企画ででてきた、アメリカの小学生「竜登と和人」のその後の話。
今回は竜登編。
エレメンタリースクールが舞台です。


ゴールデンウィーク


4月ももうすぐ終わる。
学校に行く支度を終え、母さんを待ちながら、オレは、来月のカレンダーをめくり、じっと見ていた。
ため息をつきながら。

4月の終わり、といえば、ゴールデンウィーク。
5月の3,4,5の三連休はもちろん、みどりの日、じゃなくて昭和の日だったか、名前はどうでもいいけど、とにかく休みがいっぱいある、夏・冬・春休みに次ぐ、楽しいときだ。

けれど、オレの見ているカレンダーには、土日以外の休日の表示がない。

不良品?いいや。
カレンダーは間違ってない。
だって、ここはアメリカ。
アメリカに、ゴールデンウィークは、ない。


学校についてからも、オレの気分は晴れなかった。
最近、こっちでの生活に慣れてきて、あまり寂しいと思うこともなくなったけど、なんか久々にホームシックかも。ああ、休みがほしいぜ。

「なにため息ついてるんだ」

日本語で話しかけられた。
ここで日本語を話せるのはオレの他には、和人しかいない。
和人は、金髪に緑の目で、見かけは完全にヨーロッパ人だけど、日本人だ。
英語も普通に喋るけど、日本に長く住んでいたから、いまだに日本語のほうが得意らしい。

「だってさあ、今は4月の終わりだぜ」
「そうだな、だから何だ?」
「何だ、って。お前忘れたのかよ、日本じゃもうゴールデンウィークが始まっているんだぜ。でもアメリカじゃなーんにもない、ため息も出ようってもんだぜ」
「ああ、そういや、そんなのあったな」

くそ、乗ってこない、こいつこういうところはアメリカ人だよな。

「でも、日本にいたときから、ゴールデンウィークって、あまり関係なかったな。幼稚園は休みだったけど、一時保育施設にいたから」
「え、お父さん休みじゃなかったのか、お母さんは?」
「どっちも米国の企業だったから、休みはなし」
「ふうん」

そうなのか。なんか、ちょっと悪かったかな。

「でもさあ、オレの誕生日だって、日本じゃ必ず休日なのに平日なんて」
「誕生日、5月だったな」
「そう、5月5日」

子供の日。毎年楽しみにしてるのに、こっちじゃ柏餅すら食べられない。

「ああ、それで竜登か、良い名前だな」

そう、鯉のぼりがオレの名の由来。でも、それを聞いたのはこいつからだった、なんか不思議だよな。

「あ、そうだ、8日に誕生会やるんだ、7日はさくら学園があるからさ、来いよ」
「ああ、もちろん。ところで」

日本語だから誰もわからないのに、和人はいきなり声をひそめた。

「ヴェーラは呼んだんだろうな」
「え、あ、いや、まだ言ってない」
「何してんだよ」

こづかれた。でもやっぱちょっと勇気いるっていうか。

「Hi、Verra」

ちょ、何呼んでるんだよ!

「What?」

机の下で、和人がオレの足を蹴った。何すんだ、痛いだろうが。

「あ、あの」

もの問いたげなヴェーラの黒い瞳に見つめられると、すごい緊張する。

「ええと、Please come to my birthday party.」

大きな瞳が見開かれる、通じたかな。

「Sure!」

やった、通じた、え、OK?
和人がこっちをみてにやっと笑った。

ヴェーラがにこっとする、ほんと美人だよなあ。

「Thank you so much, リュウト」

え?今「りゅうと」って言った?
今までずっとルークとしか呼ばれてなかったのに。

「どうしても本当の名前で呼びたいっていうから、この間からナイショで特訓してたんだ」

わ、マジで。なんかすごくうれしい。

「よかったな、気分上昇したか?」
「うるせー!」

オレは机の下で和人の足を蹴り返してやった。

だけど、たしかに。

アメリカの5月も悪くないかな。

END


近日中に和人編もやります^^


ファーストネーム

「竜登と和人」のシリーズ(いつシリーズ化したんだww)の初夏、和人編です。

ファーストネーム

今日は4月最後の土曜日。
さくら学園にも大分慣れてきた。

思った以上にシチズンやハーフの子が多く、日本語で苦労している姿に驚く。
竜登によると「ここは日本の会社の少ない地域だから、えーと、なんだっけ、チュウザイインの子があまりいなくて、永住者の子がすごく多いから普段日本語あまり使ってないんだろう」ということだ。

オレが見かけに反して日本語が得意だとわかったせいか、作文の時間になると、しょっちゅう日本語表現を聞かれる。

例えば

「森川、雪が地面をcoverしてる、ってなんて書いたらいいんだ」
「coverは覆うだけど、この場合、地面は白い雪に覆いつくされていた、って書いたほうがいいんじゃないか」
「お、なんかカッコイイ」

まあ、こんな感じ。

そんなこんなで、今日の授業も終了。
日本語で授業を受けるのは思った以上に面白い、ここに来てよかったな、と思う。
竜登に感謝しなくちゃな。

「では、今日の漢字のテストを返します。満点は3人、秋山さん、榊原くん、森川くんです。はい、みんな拍手!」

担任の山口先生がそう言い、教室に拍手が起こる。やった、今回も満点。オレは隣りの席の竜登に親指を立ててみせた。竜登も返してくる。竜登はやっぱりエレメンタリーより、こっちにいるほうが生き生きしている。
大分英語に慣れてきたとはいえ、エレメンタリーだと、テストのときに問題文を理解するのに時間がかかってかなり損をしているからな。

20人のクラスメイトに次々と答案用紙が返されていく。その中にはため息をついている奴もいる。

「松下さん!」

オレの前の席の松下さくらが名前を呼ばれた。
答案用紙をみて、ため息はつかないまでも、首を傾げている。あまり芳しくなかったのかな。
次にオレの名が呼ばれ、受け取って席に戻る。
着席する前にちらっと見ると、松下さんはまだ首を傾げていた。

「では、連絡ノートとお知らせプリントを渡します。今日の日直は?」

竜登と、竜登の前の席の女子が手を上げた。

「はい、じゃあ、小林さんと榊原くんは先生と一緒にオフィスまでとりにきてください」

二人が立ち上がり、先生とともに出てゆくと教室が急に騒がしくなった。
先生がいなくなるととたんに騒ぎ出すのは、日本人もアメリカ人も変わらない。

と、松下さんが振り向いた。

「森川くん、テスト見せてくれない。どこが間違ってるのかよく分からないの」
「ああ、いいよ。どこを間違えたの、松下さんの見せてもらっていい?」
「うん」

点数は70点。間違いは3つ、うーん、惜しいな。

「まず、貿易の貿、下は目じゃなくて貝。それから、職員の職、点忘れてる。衛生の衛は、人偏じゃなくて行人偏」
「ああ、そうか。森川くん、スゴイね」

松下さんに尊敬のまなざしをむけられ、ちょっと照れる。こっちきてからも勉強してたのは無駄じゃなかったな。

「いや、それほどでも。6歳まで日本にいたし、本が好きだったから、漢字はわりと得意なだけ」
「でもすごいよ。あたし、あまり日本語得意じゃないの。気を抜くとすぐ英語が混ざっちゃう」
「松下さんはずっとロサンゼルス?」
「ううん、生まれはシカゴなの。お父さんのレストランがこっちにお店出すことになって、3年前にこっちきたんだけど、シカゴでは補習校に行ってなかったから、最初は大変だった」
「へえ、オレもシカゴ生まれなんだ。1歳になる前に日本に引っ越したから、記憶はないけど」
「えー、そうなの。いいところだよ。こっちも好きだけどシカゴも好き。ロサンゼルスは雪降らないから、クリスマスとか物足りない」

そんな話をしていると先生が戻ってきた。教室が静かになる。
もう少し喋りたかったな、ちょっと残念。
プリントとノートが配られ、来週の予定を聞いて、解散。
オレはバックパックを手に立ち上がった。

「ねえ、森川くん」

松下さんが話しかけてきた。

「なに」
「来週も漢字教えてくれる、間違えたところ」
「うん、いいよ」
「よかったー!じゃあ、約束ね、和人」
「あ、うん、え?」
「授業中以外では、そう呼んでもいい?」
「いいよ、もちろん」

な、なんかどきっとした。
いや、松下さんはアメリカ生まれなんだから、友達同士はファーストネームで呼び合うのが普通で、深い意味はないんだ、きっと。なに意識してんだ、オレ。でも、だったらオレも「さくら」って呼んでもいいのかな。

「あたしのことも、さくらって呼んでね」

やばい、本格的にドキドキしてきた。だから深い意味はないんだから、落ち着け。

「おーい、和人!」

出口で竜登が呼んでいる、もう行かないと。なんか名残惜しい気がするけど。

「ああ、今行く!」
「外にいるから、あ、松下、また来週な!」
「うん、またね、榊原くん!」

え、榊原くん?てことは、ファーストネームで呼ぶのはオレだけ?

「じゃあ、また来週。まつ・・いや、さくら」
「うん、バイバイ、和人」

教室を出て、車に乗ってからも、まだドキドキは治まらなかった。
来週が待ち遠しい。

漢字、がんばらないとな。


END



ビジュアルは日本人、でも中身はかなりアメリカ人。
和人と正反対のさくらちゃんですw
積極的なのもアメリカの女の子っぽい。