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レモンシャーベットのように・・・ Part1  Last Christmas

「ゆめいろ・バウム」以来の真面目なww蒼ミクです。
12月なので、クリスマス。定番です。
まあただいちゃついてるだけの話でもなんなので(そんなの延々と見せられてもねえ・・・)ちょっと波乱含み、かも。




Part1  Last Christmas


12月に入ると、街は一斉に赤と緑に彩られ、どこに行ってもクリスマスソングが流れてくる。それは、いつの年も同じ、だけど。
俺にとって今年は特別。

「きれいだね」

夕暮れ時、イルミネーションの装いを纏った街路樹を見上げて美紅が言った。

「うん」

去年まで何とも思わなかったクリスマスを待つ街並み。それが今年はすごくきれいに見える。
そう、今年は好きな人と過ごす、初めてのクリスマス、いやが上にも期待は高まる。

BGMが「恋人たちのクリスマス」から「ラスト・クリスマス」に変わった。

去年のクリスマス、いくらなんでもイブにコンビニ弁当は侘しい、と思って実家に帰ったら、
「せっかく東京の大学に入ったのに、クリスマスに帰ってくるなんて不憫な子ね」
と母親に同情された。
不憫、って。一気にテンション下がったのを鮮明に覚えている、メシはうまかったけど。

でも。
俺は傍らの美紅の顔をちらっと見た。

まだ何の確認もとってないけど、クリスマスは一緒にいてくれるのかな。

今年のイブはちょうど週末の金曜日。クリスマスは家族と過ごす習慣とか。七夕に毎年パーティを開くくらいだから、そういうのもありそうな話だなあ。
そこに呼んでくれるっていうのも嬉しいといえば嬉しいけど、出来ればふたりきりで過ごしたい。
いや、それもなかったりして。だったら今年こそコンビニ弁当でクリスマス?そ、それだけは避けたい。

“Tell me baby do you recognize me?”

歌詞がやけにはっきり聞こえた。
そういや、この曲って失恋した男が元カノへの未練を訴える内容だったような。
う・・・。いや、ネガティブな発想はやめよう。
とにかく、一度ちゃんと聞いておかなくちゃ。

「美紅」
「なに?」

美紅はもの問いたげに俺の顔を見上げた。

「クリスマス、どうする?」


BGM「Last Christmas」Wham!


久しぶりにヘタレ全開の蒼くんです。
もう少し自信持てよ、プロポーズまでしておきながらww
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レモンシャーベットのように・・・ Part2  Santa Claus is coming to town

Part2  Santa Claus is coming to town


「うーん、どうしよう」

美紅はちょっと眉根を寄せて考えこんだ。
どうしようって、何を迷っているのかな。家族と俺とどっちをとるか考え中、ってこと?

「メインはやっぱりチキンよね。あたしはローストがいいんだけど、蒼くんはフライドチキンのほうが好き?」

なんだ、料理の話か。でも、俺の名前が出たってことは予定には入ってるんだ。ちょっとほっとしたりして。

「いや、美紅の好きなほうでいいよ」
「じゃあ、ローストチキンで決定。レッグだけでもいいけど、せっかくだから丸鶏でやりたいな。やっぱり華やかさが全然違うし。二人じゃ食べきれないだろうけど、あとで残った肉を削いで冷凍しておけば、サンドイッチとかサラダ作るときに便利・・・」

美紅はまだ何か言ってたけど、「二人じゃ食べきれない」ってとこしか耳に入らなかった。
それって、他には誰もいない、ってことだよな。
つまり・・・

「あ、あのさ・・・」
「なあに?」
「聞きたかったのは料理のことじゃなくて、美紅がクリスマスをどこで過ごすつもりかってことなんだけど」
「え、蒼くんのとこじゃダメなの?」

美紅は、不安そうな表情で俺を見た。そんな顔をさせるつもりはなかったから、ちょっと焦ってしまう、けど。
不謹慎かもしれないけど、すごく嬉しい。

「いや、そんなことないけど、家はいいの?お父さんとか」
「そうそう、お父さんがすごく喜んでるの」
「なんで?なにを?」
「今年は美紅にも彼氏が出来たから、クリスマスは久しぶりに茜さんとふたりきりですね、って」

なるほど。そういうタイプなのか、なんとなくわかるような気もする。

「うちの親、クリスマスイブが結婚記念日なの。でもって銀婚式。だから蒼くんが一緒にいてくれないと路頭に迷っちゃう・・・」

なんだか胸がいっぱいになって、思わず美紅を抱きしめてしまった。

「ちょ、蒼くん、人が見てる」

別にそんなこと気にならなかったけど、美紅が恥ずかしそうなので仕方なく体を離した。

「美紅をひとりにするわけないだろ」
「うん・・・」

頬を染めて、嬉しそうに頷く美紅がかわいくて、人並みが途切れた隙に軽くキスした。

「蒼くん!!」
「You better watch out、You better not cry、Better not pout、I'm telling you why
Santa Claus is coming to town・・・」
「べつにふくれてなんかないもん」

といいながら、ちょっと怒ったように俺を睨む美紅を促して、アパートへの道を急ぐ。

Santa Claus is coming to town

クリスマスはまだ先だけど、一足先にサンタがやってきた、そんな気分。

12月10日、金曜日。
クリスマスイブまでちょうど2週間という頃。

この時は想像もしていなかった。
まさか、この1週間後に冬の嵐が訪れる、なんてことは・・・。

BGM 「Sant Claus is coming to town」

なんかどんどん男キャラが恥知らずになっていくような気が^^;

レモンシャーベットのように・・・ Part3 The Twelve Days of Christmas 1

全部書く時間がなかったので、分けました。
曲は「クリスマスの12日」LAのアダルトスクールで習いました、なかなか可愛いクリスマスキャロルです。
クリスマスの12日は12月25日から始まるのですが、日本の話だし、まあ細かいことはいいか、と。
いい加減ですみません。


Part3 The Twelve Days of Christmas 1



今日は12月17日、イブまであと一週間。でも、まだプレゼントが決まらない。
自慢じゃないけど生まれて20年、女の子にクリスマスプレゼントなんてあげたためしがない。本人に聞くのはあまりに興ざめな気がするけど、何をあげれば喜ぶのか皆目わからないから、聞いたほうがいいのかな。
昼休み、構内のカフェで美紅を待ちながら考えあぐねていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、そこにいたのは美紅じゃなくて藍崎だった。こいつはなんでいつも後ろから現れるんだ。

「どうした、深刻な顔して、もしやクリスマスを直前に控えて彼女に振られたとか?」
「縁起でもないこと言うな」
「ごめんごめん・・・」

藍崎はクスクス笑いながら、俺の前に腰を下ろした。厚かましい奴だ、誰も座っていいなんて言ってないぞ。

「そう睨むなよ、彼女が来たら移動するから」

くそ、ちゃんとわかっていながらからかいやがったな、性格悪い。美紅が来たらって言うけど、正直あんまり美紅を藍崎に会わせたくない。
自分より顔のいい男は彼女のそばをうろつかないでほしい、と大概の男は思っているはずだけど、藍崎より顔のいい男なんてまず思いつかないからわからないのか。いや、むしろわかってやってる?こいつならありえそうだ。
きっとクリスマスをひとりで過ごすなんて経験は一度もないんだろうな、藍崎の出身校は確か共学だったし。
でも、そうか、だったらこういうことには詳しいに違いない。

「クリスマスプレゼント、藍崎はどうするんだ」

藍崎はコーヒーカップを持ったまま顔を上げた。

「なんでそんなこと訊くんだ?」
「藍崎なら詳しいだろうと思ってさ、女の子が喜びそうなプレゼント」
「一般論なら相談に乗るけど、クリスマスプレゼントをあげたことは一度もない」
「ええー、な、なんで?!」
「不公平になるから」
「ふこうへい?」
「クリスマスに一緒にいると“特別な関係”って誤解されがちだろう。だからクリスマスとバレンタインは女とは付き合わない。たまにはひとりになりたいし」

た、たまにはひとりになりたいって。
一回くらい言ってみたい台詞だ。いや、ほんとは絶対にクリスマスにひとりになんかなりたくないけどさ。

「プレゼントなら、バッグとかアクセサリーとか、時計。ま、そのあたりが無難だろ」

そう藍崎は言ったけど、なんだか全然気乗りしない口調だった。
一度もプレゼントあげたことがない、そんな気もないのなら当然か、相談相手を間違えたような。
と、藍崎が突然手を上げて誰かを手招きした。

「女の子のほしいものは女の子に訊くのが一番だろ」
「何か用?」

やってきたのは学内で間違いなく1,2を争う美女、中川碧だった。

「橘がさ、彼女へのプレゼントを何にしようかって悩んでるから相談に乗ってやってほしいんだけど」
「そうねえ・・・」

中川碧は首をかしげて考えこんだ。
長い黒髪がさらさらと流れ、ふわりと揺れる。シャンプーのCMにスカウトされそうなきれいな髪だ。きっとさぞモテるんだろうな。

「残念だけど、わたしは両親にしかプレゼントをもらったことがないし、それも子供の頃のことだから、あまり参考にはならないと思うわ。低学年のときは本とぬいぐるみ。高学年は本と文房具、シャープペンシルとか、システム手帳とか」

真面目そのものって感じで、悪くはないけど、色気のないプレゼントだなあ。
それにしても学内一の美女が異性からプレゼントをもらったことがないなんて意外だ。聞いてみないとわからないもんだな。

「期待に添えなくてごめんなさい。じゃあ・・・」

そう言って中川碧は行ってしまった。結局なんの参考にもならなかった。
振り出しに戻る、ってところか。思わずため息が出てしまう。


BGM「The Twelve Days of Christmas」


藍崎くんと中川さん出してみました。
お友達へのプレゼントです、とか。どうでもいいですねww

レモンシャーベットのように・・・ Part4 The Twelve Days of Christmas 2

Part4 The Twelve Days of Christmas 2


「まあ、本人に聞いてみれば?待ち人来るだし」

藍崎に促されて入り口のほうを見ると、ちょうど美紅がやってくるところだった。
彼女が来たら移動する、と言いながら全然動く気配がない。早くどっか行け!と念を込めて奴の方を見たが完全に無視された。

「お友達?」
「藍崎洋介です、橘とは同じ学部で高校のときからの友人です」

美紅の問いに藍崎は極上の微笑を浮かべながら答えた。何が友人だ、高校のときは3回しか会ってないぞ。

「はじめまして、あたしは」
「柚木美紅さん、文学部2年」
「はい、お会いしたことありましたっけ?」
「いえ、でも美人の情報は常に更新してますから」
「あ、いえ、そんな・・・」

美紅は恥ずかしそうに首を振る。すごくかわいい、けど藍崎には見せたくない。
名前知ってるのは俺から聞いたからだろ!さっさと帰れ、今すぐ立ち去れ!!

「橘が睨んでるんで邪魔者は消えます、ごゆっくり・・・」

藍崎はもういちど美紅に微笑かけ、テーブルにコーヒー代を置くと悠然と去っていった。

「かっこいい人だね」

確かに、無駄に顔がいいのは認める。ついでにさほど勉強しているようには見えないのに成績もいい。

「蒼くんの高校の友達?」
「いや、同じ学校じゃない。藍崎は神奈川代表のフォワード」
「へえ、すごい」

そうそう、運動神経もいいですね。俺にとっては唯一張り合えるポイントだけど。

「藍崎が気になる?もう少し話したかったとか・・・」

なんとなく不安になって思い切って賭けに出てみた。当然、ここは「そんなことないよ」と言ってほしい、言ってくれる筈だ、いや、言ってくれ。

が、美紅の答えは

「うん」

だった・・・。

玉砕・・・。正直な気持ちなのかもしれないけど、かなり凹む。
やっぱり顔のいい奴って得だよな。

「あたし、蒼くんが高校のときのこととか全然知らないから、いろいろ聞きたかったのに残念だなあ・・・」

え?

「それだけ?」
「ほかに何かあるの?」
「いや、ないけど」

藍崎に関心があるわけじゃないのか。あ、いけない、自然に顔が緩んできてしまう。


「別に藍崎に聞かなくても高校のとき話くらいいつでもするよ。何時間でも」
「ほんと?」
「うん。何でも。隠し事はしない」

しないというより、隠さなきゃいけないことなんか何もない。それはそれで多少情けない気がしないでもないけど、まあいいや。

幼稚園のときに、“The Twelve Days of Christmas”ってクリスマス・キャロルを歌っていたのを思い出した。

On the first day of Christmas,
my true love sent to me A partridge in a pear tree.

で始まって、毎日プレゼントが増えていく歌で、子供心に毎日プレゼントもらえるっていいな、って思ってた。
でも今は、美紅に毎日プレゼントをもらってる気分。

美紅の笑顔がうれしい。
美紅がそばにいてくれれば、それだけでいい。

さすがに構内でキスするわけにはいかないけど、どうしても美紅に触れたくて、テーブルに置かれた美紅の手を握った。

「冷たい」
「うん、外寒かったから」

冷え切った美紅の両手をそっと包みこむ。

「あったかい、どうもありがと」

美紅が暖かく感じるってことは、当然俺の手は冷たくなるわけだけど、美紅が嬉しそうに微笑むと心が暖かくなる。

そうだ、プレゼントは暖かいものにしよう。
もう、美紅が凍えなくてもすむように。


BGM「The Twelve Days of Christmas」

やっとプレゼントが決まりそうです。
完璧な藍崎くんにちょっとコンプレックスの蒼くん。これがのちに嵐の遠因に・・・?

レモンシャーベットのように Part5 Let it Snow 1


Part5 Let it Snow 1


その夜。

食事のあと、美紅とふたりでつけっぱなしのテレビを見るともなしに眺めていたら、最近よく見かける女性タレントがインタビューを受けていた。

好きな食べ物とか、どんな男性がタイプとか、いかにもステロタイプな質問ばかりで聞き流していたら「初恋はいつ?」という質問が出た。幼稚園のときに隣の席だった子とか、そんなこと究極にどうでもいい。
もうスイッチ切ろうかな、と思っていたとき、

「蒼くんの初恋っていつ?」

と、美紅が話しかけてきた。女の子ってこういう話題って好きなのかな。

「うーん・・・」

初恋って言われても、なにせ中高の6年間、女子から隔離された生活だったから美紅が初恋だったようなものなんだけど。でも、テレビの質問みたいな他愛もないことを聞いてるんだったら。

「小学2年のときかな」
「へえ、あたしと同じだ・・・」
「美紅も?どんな子、やっぱり同じクラスとか近所の子とか?」
「ううん、中学生」
「中学生?小2だったのに?」

てっきりこのアイドルタレントと同じようなものだと思っていたのに。
中学生って、なんで?何か気になる、すごく気になる。

「うん、小2の夏休み、お父さんとお母さんがどっちも出張で家にいないことがあって。お姉ちゃんは先生の家に泊まりこみでレッスン受けていたから、あたし、おばあちゃんの家に預けられてたの。わりとお転婆なほうだったから屋根に上ったり、塀から飛び降りたりしてたんだけど、ある時いつも通りに飛び降りたら変な着地になって、足捻っちゃったの。痛くて歩けなくて泣いてたら、通りがかった中学生の男の子が声かけてくれて。事情を話したらスプレーで足冷やして、テーピングしてくれて。歩けないからっておぶっておばあちゃんの家まで送ってくれたの、背中があったかくてすごく安心した。それがあたしの初恋かな」

それは・・・うん、確かに好きになるだろうな。救世主だ。

「顔もよかったとか」
「うん、そうだったと思う」

ちょっと胸が痛い。

「名前とか聞かなかったの?」
「あたしにそんな余裕なかったし、おばあちゃんが聞いたけど言わずに帰っちゃったんだって」

かっこいい・・・。
でも、何かモヤモヤする。

美紅の美しすぎる初恋の思い出。
今更十数年前のことに嫉妬してもしょうがないけど、なんとなくその中学生に負けているような気がする。どうしても救世主=王子様、って図式が頭に浮かんでしまう。

少女マンガとかだと、大人になってから運命の再会を果たしたりするんだよな、こういうパターンって。
いや、まさか。現実は少女マンガのように都合よくはいかない。そんなことあるわけないよな。うん、まずない。絶対ない。

そう自分に言い聞かせてみたけど、胸の奥にたったさざ波は、なかなかおさまってくれなかった。




ちょっと波乱の兆しが・・・。
確かに現実は少女マンガのようにはいかない、とは思いますが。

レモンシャーベットのように Part6 Let it Snow2

Part6 Let it Snow2


「蒼くんのこと聞きたかったのに、あたしのことばっかり話しちゃった。蒼くんの話聞かせて。どんな子だったの?」

ああ、そうか。美紅の初恋話があまりに衝撃的すぎてすっかり忘れてた。

「同級生、苗字は忘れたけど、確か“りさ”って名前だった」
「可愛い名前だね、どこが好きだったの?」
「うーん、当時からもうサッカーやってて、あんまり女の子のこととか考えたことなかったんだけど、バレンタインにチョコと手紙もらって、ちょっとドキドキしたっていうか・・・」
「どんな手紙?」

後から考えれば、このあたりから雲行きが怪しくなってきたんだけど、この時は全然気づかなかった。

「そうすけくんが大きくなって、Jリーガーになったら、りさをおよめさんにしてね、って書いてあった」
「返事は書いたの?」
「うん。いいよ、プロになったらけっこんしようかって書いた気が」
「ふーん・・・」

ちょっと語尾が上がっている。
美紅がこういう言い方をするときは機嫌が悪いときだ。もしかして、まずいこと言った?

「蒼くんのプロポーズって、りさちゃんが先約だったんだ。約束は前にしたほうが有効だよね。りさちゃんと結婚する?」

ええええええーーー!!!

「な、なんでそうなるんだよ!」
「大きくなったら結婚する約束なんでしょ」
「いや、約束はプロになったらってことで」

何言ってるんだ俺は。問題はそういうことじゃなくて。

「そう。プロになってたら、りさちゃんと結婚するつもりだったんだ」
「だから俺はもうサッカーはやめてるから。それにそんな昔のこと、今更言われても」

人間なんて勝手なもんだ。自分だってさっきまで美紅の初恋の中学生に嫉妬していたくせに、自分が嫉妬されると理不尽だと感じてしまう。

「あたし、もう帰るね。さよなら」
「さ、さよならって。もう遅いし、今日は泊まっていくんじゃ」
「まだ9時すぎだし、人通りも多いから大丈夫」

あっという間に、美紅はコートを羽織り、バッグを手にして出ていってしまった。
あまりの展開に、しばらくは何が起こったのかわからなかった、けど。
まずい、追いかけなきゃ。

玄関のドアを開け、外階段を駆け下りる。
角を曲がると駅への道、かなり長いから追いつけるはず、なのに・・・。
美紅の姿はどこにもなかった。

なんで・・・
何処に行ってしまったんだろう・・・。


バカですね・・・。正直に言えばいいってもんじゃないんだよ。







レモンシャーベットのように Part7 Let it Snow3

Part7 Let it Snow3


それからしばらく、駅までの道のりを探してみたけれど、やっぱり美紅は見つからなかった。連絡を取ろうにも、携帯は部屋に置いてきてしまったし、とにかく一旦戻るしかない。

だけど・・・なんであんなに怒らせてしまったんだろう。
やっぱり「けっこんしようか」と書いたなんて言ったのがまずかったんだろうな。12年も前の話だから、笑って聞いてくれるかと思っていた。

笑って、いや・・・。
考えてみれば俺も同じだ。どんなに過去の話であっても笑って聞くような気分にはなれない。

美紅の初恋話、向こうは好きだなんて言ってないにも関わらず、成長したその中学生が突然現れて美紅を攫っていってしまうんじゃないかとか、つい考えてしまって聞いてて穏やかな気分じゃなかった。

もしかしたら、無意識のうちに対抗意識のようなものを感じていたのかもしれない。
自分が嫉妬してしまったから、美紅にも嫉妬してほしい、美紅の気持ちを試したい、そんな思いが心のどこかにあって、言わなくてもいいことまで言ってしまった。そして、その結果、美紅を傷つけた。

バカだ、俺は。

今夜中に美紅を見つけて、ちゃんとあやまろう。
そう思いながら、アパートの前まで来たとき。

歌声が聞こえた。

「Oh the weather outside is frightful,
But the fire is so delightful
And since we've no place to go,
Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!」

美紅だ!見つけた・・・。

灯台もと暗し。美紅がいたのは、アパートの斜め前の児童公園だった。
ブランコに揺られながら、歌っているのは・・・

「それ、“ダイ・ハード”で流れてた曲だね」
「うん・・・」
「なんでここにいるの、帰るんじゃなかったの?」
「家帰っても誰もいないし、ちょっと頭冷そうと思って。あたしなんてバカだから、いっぱい雪が降って埋もれちゃえばいいのに、って思ってた」
「それで“Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!”」

・・・可愛い。
バカ、って。美紅もそう思ってたのか。

「でも、雪振りそうにな・・・うわっ!」

いきなり突風が吹きつけてきた。今更気づいたけど、寒い!
慌てて飛び出してきたから、上着を着てなかった。いくら暖冬傾向にあるとはいっても、12月の夜風はTシャツとトレーナーでは凌げない。

「雪振らないけど、風、強いね、寒い」
「うん。ね、美紅、When we finally kiss goodnight,How I'll hate going out in the storm!・・・って思わない?」
「・・・思う」
「だったら戻ろう。ポップコーンはないけど、美紅の好きなクッキーとアップルティーならあるから」
「怒ってない?」

ちょっと拗ねたように、上目遣いで俺を見上げる美紅がすごく可愛い。



「Let it Snow!Let it Snow!Let it Snow!」


痴話喧嘩ww
長いんで分けました。
ポップコーンの話は、この曲の中盤に「And I've bought some corn for popping」という歌詞が出てくるからです。
しかし、この話、クリスマスイブまでに終わりそうにないです。
年内に完結する、と思いたい。

レモンシャーベットのように Part8 Let it Snow4


レモンシャーベットのように Part8 Let it Snow4


「怒ってるのは美紅だろ。さっきはごめん、美紅に嫉妬させたくて言わなくていいことまで言った、反省してる」
「ううん、あたしこそ、自分から聞いておきながら怒るなんてないよね。最初は冗談で怒ってるふりしてたんだけど、だんだん本当に悲しくなってきて・・・」
「なんで?」
「だって・・・」

美紅がうつむく。
その途端、涙が頬を伝うのが見えた。
え・・・
どうして?

「蒼くんが、“大丈夫、りさちゃんじゃなくて美紅と結婚する”って言ってくれないから」
「みく・・・」

胸が締め付けられた。
雪に埋もれてしまえばいいのは俺の方だ。
本当にごめん、美紅。

「俺は美紅以外とは結婚しない。俺が愛しているのは美紅だけだから」
「蒼くん・・・」

再び、強い風が吹きつけてきた。これは天罰なんだろうか。寒い、冗談抜きで寒い。
俺は美紅に手を差し伸べた。

「一緒に帰ろう。帰ってくれないと、俺凍えそう・・・」
「あ・・・ごめん。そんな格好で今まで外に?」
「うん、凍死する前に一緒に帰るって言ってくれる?」

返事の代わりに、美紅は俺の手を取り、そしてそのまましがみついてきた。

「アップルティーよりホットミルクがいいな」
「いいよ。ちゃんと用意してあるから」

But if you'll really hold me tight,
All the way home I'll be warm.

君が僕を抱きしめてくれたら、
うちに帰るまでずっと暖かいよ・・・。


そう、体は冷え切っているけど、美紅を抱きしめていると心が熱くなる。
大好き・・・
愛してる・・・


こうして・・・
クリスマスイブを一週間後にひかえた夜に突然吹き荒れた冬の嵐は治まった。


だけど
天罰は下った。

決して好きな女の子を泣かせたりするもんじゃない。たとえ、悪気がなくても、だ。
この後に、本当に深刻な嵐が訪れることなど、このときの俺は知る由もなかった。



「Let it Snow!Let it Snow!Let it Snow!」



やれやれ・・・
まあ、基本「犬も食わない」ってやつですね。
Let it Snowは今回で終わりです、次は何にしようかな。
さて、このあとの展開はかなり蒼くんを悩ますことになります。
噂の中学生登場?どうでしょうねえ・・・

レモンシャーベットのように Part9 Silver Bells 1


Part9 Silver Bells 1 

12月は、忙しい。
気がついたら、あっと言う間に数日が過ぎている。

12月22日。イブまであと2日なのにまだプレゼントが買えてない。
ショッピングモールや商店街には何度か足を運んだけれど、どこに入ったらいいかわからないし、勇気出して店に入っても店員さんに話しかけられるとすごく緊張してしまって、結局何も買わないまま戻ってくる、ということが何度か続いていた。

誰かアドバイスしてくれる人がいるといいんだけど、買い物付き合ってくれそうな女友達に心当たりないし。
でも、どうしても今日明日中には決めないと。
そんなことを考えていたら携帯が鳴った。美紅からだ。

“もしもし、蒼くん。明日の天皇誕生日なんだけど。友達と出かけるから、そっち行けないけどいい?”
「ああ、いいよ。じゃあ、24日は駅で待ち合わせでいい?」
“うん、買い物早く済ませたいから9時半で”
「OK。じゃあ」


美紅と会えないのは寂しいけど、プレゼント買うのに本人がいたら興ざめになってしまうから、ちょうどいい。
今日、これから行こうかな。明日だとギリギリだし。
そう思っていたら、再び携帯が鳴った。今度は美紅じゃない、誰だ?

“あ、橘くん。今日時間空いてる?”

中年男性の声。バイト先の学習塾の塾長だった。「時間空いてるか」と質問の形態をとってはいるが、つまりは「時間空けろ」という意味だ。

「空いてないって言ったら、そこをなんとか、って食い下がるでしょう」
“おお、さすが。橘くんは賢いねえ。ウチのエースだけのことはある”

何がエースだ、便利に使えるコンビニチューターとしか思っていないくせに。

“長野くんからさっき電話があって、風邪気味だからって医者行ったらインフルエンザだったって。この大事な追い込みの時期、生徒に伝染ったら大問題だろ”
「そうですね・・・」

長野のことはどうでもいいんだ、気の毒に。まあバイトの扱いなんてそんなもんだけど。

「で、何時からですか?」
“5時半、2コマあるから。算数と理科”
「わかりました。すぐ行きます。そのかわり明日と明後日は絶対出ませんから」

そう宣言して電話を切り、時計を見る。あと30分しかないじゃないか。仕方ない、今日は諦めて明日一日かけて探そう。
はあ・・・。
ため息をつきながらバイト先へ向かう。生活かかってるからしょうがないけど。


この時、何がなんでも断っていれば。
この日にプレゼントを買いにいけていたら、あんなに悩むこともなかった。

だけど未来が見えるわけでもない俺に、そんなことがわかるはずもなかった。




ここはちょっと小休止、ということで。
まださほどの事件は起こりません。Silver Bellsは、落ち着いた感じのクリスマスソングで、私はすごく好きです。
ぜひ、いちど聴いてみてください。
試聴はこちらへ 
Silver Bells

レモンシャーベットのように Part10 Silver Bells 2

イブですね。
テンプレに☆飛ばしてみました。今日と明日限定です。
みなさま、どうぞよいイブを・・・。





Part10 Silver Bells 2


12月23日、天皇誕生日。
明日はイブだし、祝日だし、ということで街はとても賑わっていた。
赤と緑でラッピングされたプレゼントを抱えて行き交う人々、街はクリスマスムード一色だ。

City sidewalks, busy sidewalks.
Dressed in holiday style
In the air
There's a feeling
of Christmas

「Silver Bells」の歌詞を思わせる風景。50年前も今も、クリスマスに寄せる人々の思いは変わらないのかもしれない。
小さな子の手を引いたお母さんの姿、落ち着いた感じの老夫婦、みな楽しそうだ。
仲のよさそうなカップルが目の前を横切る。
ふと、美紅に会いたくなった。
にっこり笑って「お待たせ!」とか言いながら、あの角から美紅が現れないかな・・・。

「お待たせ!」

・・・え、うそ。そんな偶然。
驚いて声のしたほうを見る。

美紅・・・じゃない・・・。

いや、知らない人じゃないけど。「お待たせ」って、なんで?
待ち合わせした覚えなんかないぞ!
俺に声をかけてきたのは、スタイル抜群のモデル顔負けの美女・・・。

「朱里さん・・・」

美紅の姉の柚木朱里さんだった。

まるきり状況の読めない俺に構わず、朱里さんは俺の腕を取ると、さっさと歩き出した。
ええと、あの・・・。
思わず朱里さんの顔を見つめる、きれいだなあ・・・。あ、いや、そうじゃなくて、いや、そうなんだけど。
ああ、もう思考回路がめちゃくちゃ。

「ごめんなさい、ちょっと合わせて・・・」

朱里さんが小声で囁き、ちらりと横を見た。
と、金髪と茶髪のいかにも軽薄そうな男の二人組がこっちを見つめているのがわかった。
・・・そういうことか。美人も大変だ。

「いや、俺も今きたところ。じゃあ、行こうか」

殊更に大きな声でそう言うと、朱里さんをエスコートし、わざと二人組の横を通って、すぐ前のショッピングモールに入った。
二人組が舌打ちしながら戻っていく姿がガラス扉に映る。
諦めたみたいだな、ほっとして、思わず大きく息を吐き出した。


「どうもありがとう。助かったわ、あの人たち、なんだかやたらにしつこくて困ってたの。でも、いきなりごめんなさい、驚いたでしょ」

朱里さんは俺の方を見て艶やかに微笑んだ。まさに大輪のバラのような美しさ、つい見惚れてしまう、こ、これは別に浮気じゃない、よな。

「いえ、役に立てたのなら嬉しいです。でも、朱里さんみたいな美人が一人で歩いていたら誰だって声掛けたくなりますよ。今日は真矢さんとデートとかじゃないんですか?」

俺の言葉を聞くと朱里さんはため息をついた。あ、なんかまずいこと言ったのかな、喧嘩したとか・・・。

「15分前までデート中だったんだけどね、急患だって呼び出されて病院に直行」

うわあ、悲惨。
確かに医者って大変な仕事だなあ。

「もう帰ろうかなと思ったけど、来たばかりだし、せっかくだからショッピングでもしようかなと思ったらさっきの二人に捕まったの」

なるほど・・・。

「蒼祐くんは、今日ひとりなの?」
「はい、美紅さんは友達と約束があるとかで」
「あら、そうなの?じゃあ、あぶれた者同士、デートしない?」

え・・・。
デートって、その。
いいんだろうか。




いいんでしょうか^^
続きはまた次回・・・。

レモンシャーベットのように Part11 Silver Bells 3

続きです。
最初から読んでくださってる方はよくご存知の朱里さんと真矢さん。でも、それ誰?という方もいらっしゃいますよね。
朱里さんと真矢さんについてはこちらで紹介してます。 「キャラクター設定書」
彼らの登場する小説はこちら 「星くず桜」
読んでくださると嬉しいです^^
では、続きをどうぞ。


Part10 Silver Bells 3


「デ、デートって、あの・・・」

思わずうろたえる俺を見て、朱里さんはくすっと笑った。

「そういう言い方すると美紅に怒られそうね。実はランチの予約をしてるんだけど、当日キャンセルだとお金戻ってこないの。一人で食べるのは寂しいし、でもキャンセルするともったいないでしょ。付き合ってくれると嬉しいなあ、と思って」

ああ、なるほど。それは確かに気持ちはわかる、けど。

「いいんですか?真矢さんとの約束なのに他の男と、その・・・」

こんな美女とランチなんて、すごく光栄だけど、あとで揉めると困る。真矢さんには悪い印象持たれたくない。義理の兄になるかもしれない人だし。

「いいのよ。蒼祐くんは真矢さんにとっても弟になるんだから。あ、決めつけちゃった。今のはわたしの希望的観測、気にしないでね」
「いえ、嬉しいです」

弟かあ、何か照れるけど大きな味方を得た気分、すごく嬉しい。将来に明るい展望が見えてきた、そんな感じ。

「よかった、じゃあ決まりね」
「あ、はい」

ふと美紅の顔がよぎった。いや、朱里さんは未来の義理の姉、決して邪まな気持ちはないし、女性に一人で食事させるのは忍びない、・・・て、やっぱりなんか言い訳めいてるなあ・・・。

「それから」
「はい・・・」
「まだ時間があるからCD買いに行きたいんだけど、付き合ってくれる?ひとりだとちょっと不安で」

確かに。朱里さんが一人で歩いてたら、またさっきみたいに変な男に付きまとわれる可能性はかなり高い。
うん、番犬代わりだと思えば変に意識せずに済む。
買い物、そうだ、急展開に驚いて肝心なことを忘れるところだった。

「あの、朱里さん。出来たらこちらの買い物にも付き合ってほしい、というかアドバイスしていただきたいんですけど」
「いいけど、なに?」
「美紅さんへのプレゼントを買いたいんですけど、店も知らないし、入りにくいし、店員さんが出てくると緊張してしまって。朱里さんなら美紅の好みに詳しいだろうし、センスもいいから、相談に乗ってほしいと思って」

朱里さんはにっこり笑って頷いた。

「もちろん。わたしでお役に立つかどうかはわからないけど、美紅のお気に入りのお店を紹介するわ。でも、プレゼントは自分で選んでね。蒼祐くんが美紅のために選んだものじゃないと意味がないから」

やった。朱里さんが相談に乗ってくれるんなら心強い。
俺には弟しかいないから、年上のきょうだいも、女きょうだいも新鮮だ。
「お姉さん」っていいなあ、と思ったりして。

「じゃあ、行きましょ」
「はい、ありがとうございます」

そう、きれいなお姉さんと買い物ってことで、ちょっと浮かれてしまっていたのは事実。
でも・・・
このあと、とても浮かれてなどいられなくなるんだけど・・・。



なかなか進みません。いつ終わるの?確実に年越しそうです。
いつものこととはいえ、「なんで長くなるの?!」






レモンシャーベットのように Part12 Silver Bells 4

新年初めての小説更新です。
今年もよろしくお願いします。頑張ります。


レモンシャーベットのように Part11 Silver Bells 4



CDを買う、といったら、普通は1枚か、せいぜい2枚だと思っていた。
でも・・・。
朱里さんは一体何枚買うつもりなのか、すでに店内用のかごの中は満杯だ。

「ごめんなさいね、重いでしょ」
「いえ、平気です」

とは言ったものの、結構重い。2枚組とかボックスとかが多いせいだ。クラシックがほとんどだけど、民族音楽とか、まったく馴染みのないジャンルもある。

「いろんな音楽聴くんですね」
「ええ、仕事柄。でも趣味の部分も多いかな」

そういえば朱里さんは音楽家だったな、と思っていると、当の本人のCDが目に入った。
黒を基調にした背景に「Akari Yuki」の文字。真紅のシルクのドレスでピアノに向かう姿はため息が出るほど美しい。
思わず手に取ってしげしげと眺めていたら朱里さんに取り上げられた。

「恥ずかしいから見ないの!」
「どうしてですか?すごくきれいなのに」
「お世辞はいいから、レジ行きましょ」

朱里さんは俺の手を引っ張ってレジに向かった。まあ確かにCDのジャケットに写っている本人が現れたらびっくりするだろうな。
今度来たら買おう。


CDショップを出て、美紅のお気に入りの店へ向かう。
服だけでなく、バックやアクセサリーも揃えていて、とても可愛らしいインテリアだ。
一人だったらとても入る勇気はない。やっぱり朱里さんがいてくれてよかった。
さっそく近づいてきた店員も朱里さんが「ゆっくり見たいので」と言うと、「じゃあごゆっくり」と、にっこり笑って向こうに行ってくれてほっとした。きれいなだけじゃなくて頼りになるお姉さんだな。

しばらく店内を見て回っていると、奥の方に飾ってある白いセーターが目に止まった。
長めの丈のタートルネック、ふんわりと柔らかでとても暖かそうだ。
これ、いいかも。
そう思って近づいてよく見ると、セーターは白ではなく、僅かに赤が入っていることがわかった。でも「ピンク」と表現するには淡すぎる色合いで、むしろ「薄紅(うすくれない)」という感じ、例えるなら、そう・・・桜、それもソメイヨシノの色だ。

思い出す。
初めて美紅と会ったのは、去年の春。入学式のあと、サークル紹介のときだった。
桜は満開の時期を少し過ぎて、「散り初め」のときを迎えており、少しの風でも薄紅の花びらをはらはらと舞い散らせていた。
強い風が吹いて、視界が遮られるほどの花吹雪が舞い、それがおさまった時。
目の前で美紅が微笑んでいた。

一瞬、桜の精かと思った。
その位きれいで魅力的だった。

「どうぞ・・・」と渡されたのはサークル勧誘のチラシ。その時やっと、ここは大学の構内で、この子は桜の精じゃなく、ここの学生で、俺に微笑んでくれたのはチラシを渡すためだったのだと気づいた。
あの時、一瞬で恋に落ちてしまい、それから、思いはどんどん強くなっていった。
そして今も、ずっと続いている。

「蒼祐くん?」

柔らかな心地良いメゾソプラノで名前を呼ばれ、我に返った。

「どうしたの?」

朱里さんが小首を傾げ、俺の顔を覗き込んでいた。

「いえ、このセーターどうかなと思って」
「あら、いい色ね。美紅に似合いそう。帽子と手袋も同じ素材であるのね、可愛い」

帽子と手袋、確かに一緒に置いてある。
全然気づかなかった。やっぱり女性は細やかだ。
セーターと帽子と手袋、これだけ揃っていれば美紅が凍えることはないだろう。
値段も思っていたよりリーズナブルだ。美紅はお金持ちのお嬢さんだと思っていたけど、意外に堅実なんだな。ブランドのバッグとか持ってないみたいだし。

「これにします。お付き合いありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして。こちらこそさんざん付きあわせて重いもの持たせてごめんなさいね」
「いえ、とんでもないです」

言葉を交わしながら、レジで精算を済ませクリスマス用に赤い包装紙でラッピングして、緑のリボンをかけてもらう。
ようやくプレゼントを買うことができてほっとした。

美紅、喜んでくれるかな・・・。







やっとプレゼント買えました。
いつ本題に入るのか、いつ終わるのかは・・・。
私にもわかりません。長くなってすみませんがもう少しお付き合いください。

今回、二人の出会いのエピソードを書いてみました。「薄紅の桜の精」とか、ファンタジーみたいですねw
美紅ちゃんからは蒼くんがどう見えていたのかもそのうち書いてみたいです。

この章は多分次か、その次くらいには終わるはずです。
でも、あと最低2章はあります。が、頑張ります^^;

拍手いつもありがとうございます、追記から拍手コメントの返信です

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レモンシャーベットのように Part13 Silver Bells 5

レモンシャーベットのように Part12 Silver Bells 5

「そろそろ時間だから、行きましょうか」

店を出たところで朱里さんが話しかけてきた。

「はい、あの、場所はどこですか?」
「エンシェントホテルのダイニング」
「え・・・」

エンシェントホテルといったら、この辺りでは一番格式の高い高級ホテルだ。
自慢じゃないがロビーにすら足を踏み入れたことはない。
そんなところでランチって、やっぱりセレブなんだな。
大丈夫だろうか、不安になってきた。

俺の不安をよそに、朱里さんはさっさと歩き出した。慌てて後を追う。
お姫様の従者になった気分だ。緊張するなあ、まあ光栄ではあるけれど。


ホテルのダイニングはかなり高層階にあった。
朱里さんがウェイター、いや、ギャルソンって言うのかな、に軽く会釈すると

「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」

という言葉とともに、見晴らしのいい窓際の席に案内された。

こんな高級ホテルに顔パスって。つくづく境遇の違いを感じるなあ。

「よく来るんですか、ここ」
「ううん、滅多に来ない、高いしね」
「え、でも、さっきお店の人が」
「ああ、あれは、この間仕事の打ち合わせのときに挨拶したから。明日の夜、私ここでディナーショーやるの」
「へえ、すごい。あれ、明日ってクリスマスイブ」
「そうそう、“イブの夕べ・柚木朱里とともに”って恥ずかしいタイトルがつけられたけど、お陰さまでチケットは完売です」
「おめでとうございます、でも、明日はデートなんじゃ・・・」
「ここでデートする恋人たちのためのBGMを担当するのが私ってわけ。責任重大だから頑張らなくちゃ」

朱里さんはにっこり笑った。
一点の曇りもない微笑だったんだけど、なんだか胸が痛くなった。
そう、たくさんの恋人たちが愛を語るその日、彼らのサポートをする人たちもたくさんいるんだ。自身は恋人に会うこともかなわずに。

「じゃあ、明日、真矢さんは」
「夜勤なの。夕方から明日の8時まで」
「そんな、じゃあ、今日のこのランチがクリスマスのデート・・・」

それなのに突然呼び出されるなんて・・・。

「そんな顔しないの。こんなこと、これからいつでもあることなんだから。私は気にしてないわよ、父で慣れてるしね」

そうだった、医者ってそういう仕事なんだ。つい高収入とか、そういったことばかりに目がいきがちだけど、どれだけ自分の時間を犠牲にしているのかとか、今まで考えたことすらなかった。

食前酒と前菜が運ばれてきた。

「じゃあ、とりあえず乾杯」

朱里さんがグラスを上げる。
自分の前に置かれたグラスを取ろうとして、思わず躊躇する。
本当にいいんだろうか、真矢さんが朱里さんのために用意したこの席で俺が乾杯するなんて・・・。






だからなんなの?みたいな展開ですいません。
蒼くん、いつまで朱里さんとデートしてるの?!とお思いでしょうが(私もそう思う)一応、次につなげるために必要なパートなので、もう少しお付き合いください。


拍手ありがとうございます。追記から返信です。

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レモンシャーベットのように Part14 Silver Bells 6

レモンシャーベットのように Part13 Silver Bells 6


「あの・・・」
「なに?」
「なんだか真矢さんに悪い気がして」
「そんなことないわよ、食べようが食べまいが料金は引き落とされるんだし、だったら誰かが食べてくれたほうがいいでしょ。それに彼は私が一人で食べることになることの方を気にしていたから、蒼祐くんが付き合ってくれることを喜びこそすれ、嫌な気分になるなんてことはないわ、彼はそういう人なの」

なんというか、器の大きい人だなあ。
俺だったら、たとえ将来親戚になる人であっても、美紅が他の男性と二人で食事することに寛容になんかなれそうもない。
きっと真矢さんには一生かなわないんだろうな、そんな気がする。

「あのね、蒼祐くん」
「はい」
「今日のランチはクリスマスの限定メニューで完全予約制なの。だからキャンセルしても返金されないんだけど、もしキャンセルしたらこの料理は全部捨てられることになるの。丹精こめて作った料理はちゃんと食べてもらいたいわよね、そう思わない?」
「・・・そうですね」
「じゃあ、乾杯」

再びグラスを掲げた朱里さんとグラスをあわせる。澄んだ音が響いた。
朱里さんだって本当は辛いはずだ。イブに会えないからと今日にセッテイングしたデートが途中で中止になってしまうなんて。なのに、不平ひとつ言わずにこんなに明るく振る舞えるってすごいことだと思う。自分が人間的に劣っていることをつくづく思い知らされる。



高級ホテルのランチなんて、生まれて初めてだ。
キャビアとかトリュフとかフォアグラとか、名前しか聞いたことのない食べ物が普通に出てくるのに驚く。
一体いくらするんだろう、とか、つい考えてしまうところが貧乏人の情けないところだ。

食事が終わり、デザートが運ばれてきた。
ケーキとアイスクリーム。赤と緑のフルーツソースでヒイラギが描かれている。
味も見た目も素晴らしくて、真矢さんに悪いと思いながらも、しっかりと楽しんでしまった。

「ご馳走さまでした。真矢さんにもお礼を言わないと。こんな高級な料理、学生にはとても手が届かないものだし」
「ええ、伝えておくわね。まあ、近々会う機会もあると思うけど」
「本当においしかったです」
「そうね、おいしいものをおいしく食べられることは幸せなことよね。真矢さんは小児科医でね。私、ときどき病院内の音楽会に呼ばれるんだけど、深刻なアレルギーで食べられるものがほとんどない子や、生まれたときからずっと病院から出られない子もいるの。健康で美味しいものが食べられることに感謝しなくちゃ、といつも思うわ」

そうか、クリスマスを病院で過ごす子も世の中にはたくさんいるんだ。
そして、その子たちのために夜通し働く人も。

Silver bells, silver bells,
It's Christmas time in the city.
Ring-a-ling, hear them ring,
Soon it will be Christmas day.

街にクリスマスがやってくる。
どんな人のもとにも。

恋人たちのために美しい音楽や美味しい食事を提供する人たち。病院の窓からクリスマスの街並みを見下ろす子供
たち、彼らのところにも等しくChristmas dayは訪れる。

出来ることなら、すべての人がその日を心安らかに迎えられますように。
そう、願わずにはいられない。




私、昔デパートに勤めていたことがあるんですが、12月のデパートは戦場です。
クリスマスは11時過ぎまで働いてました。
そういう生活が当たり前だと特になんとも思わないんですけど、世の中にはいろんな人がいるのですよw
さて、今回でやっとこの章が終わります。長かった。
「Silver Bells」の試聴はこちら 「Silver Bells」
次章は「 I Saw Mommy Kissing Santa Claus」です。
 

レモンシャーベットのように Part15  I Saw Mommy Kissing Santa Claus

レモンシャーベットのように
Part14  I Saw Mommy Kissing Santa Claus



「朱里さんと真矢さんって、本当にお似合いですね・・・」

朱里さんに、というより、自分に言い聞かせるように口に出した。
憧れと尊敬と、そしていくばくかの劣等感。
そんな複雑な思い。

俺はきっと真矢さんみたいな広い心の持ち主には到底なれないだろうな。美紅の子供のころの話にまで嫉妬して、その挙句に美紅を泣かせてしまうようなどうしようもない奴だし。
ため息がでそうになるのを堪えた。
ここでため息なんかついたら朱里さんに失礼だ。

朱里さんはまじまじと俺の顔を見つめた。
やば、なんかドキドキしてきた。美人に見つめられるのは光栄だけどすごく緊張する。

「そう、ありがとう。でも、あなたたちのほうがずっとお似合いよ。本当にお互い思い合ってるのがよくわかって、見ていると微笑ましくて嬉しくなるわ。わたしと真矢さんなんて、第一印象お互い最悪だったんだかから」
「え、そうなんですか」

意外だ、朱里さんと真矢さんは誰が見ても究極の美男美女カップルで、お互い一目惚れだとばかり思っていた。

「初めて会ったのは病院で、わたしはちょっと風邪気味で受診したんだけど。そのあと彼、なんて言ったと思う?“のど飴舐めとけば治る程度のことで病院に来るのやめていただけませんか、時間と医療費の無駄です”って、失礼でしょ」
「ええー!」
「わたしも山ほど言いたいことはあったんだけど、大学病院には難病の人たちがたくさんいることはわかっていたから、この程度で、って、少し後ろめたかったのも事実。だけどね、わたしもピアノの先生とうまくいかなくて精神的に不安定な時期で“あなたに何がわかるの?!”って大泣きしちゃって・・・。さすがに彼もあせったみたい。でも、勢いで先生との考え方の違いとか、なんでもピアノ優先でふつうの学生らしいことができない辛さとか全部ぶちまけたら、すっきりして気分もよくなって。そしたらね、“すみません、本当に重症だったって知らなくて。心療内科に行くのもいいですが、僕に話してすっきりするならこれからもそうしてください”って言われて、それから会うようになったの」
「へえ、素敵な話ですね」

なんというか、ドラマみたいな展開だなあ。

「彼も親の反対を押し切って医者を目指してたわけだから、いろいろ辛かったみたい。精神的にも経済的にも。だからわたしがお気楽なお嬢さんに見えてイライラしたって、あとで言ってたわ」
「真矢さんは、どうしてそこまでして医者になろうと思ったんですか?」
「子供の笑顔が見たいからですって。あれで意外と子供好きなのよ。中学生のときにね、学校の帰りに足を挫いて動けなくなって泣いている女の子を助けたことがあって。その子がね、すごく安心したように笑ってくれて。こんな笑顔をもっと見たいと思ったのがきっかけらしいわ」

え・・・。

なんだかものすごく聞き覚えのある話だ。
中学生の男の子と、足を怪我した小さな女の子。
あまりに似すぎている、美紅の初恋の話と。

いきなり心臓の鼓動が早くなった。

でも、まさか、そんな・・・。
そんなこと・・・。




やっとここまできました。
はい、そういうことです。イブを翌日に控え、とんでもない事実を知ってしまった蒼くん、どうしましょうね。

レモンシャーベットのように Part16  I Saw Mommy Kissing Santa Claus2

レモンシャーベットのように
Part15  I Saw Mommy Kissing Santa Claus 2



「真矢さんって、いま幾つなんですか?」

訊かないほうがいい、頭の中で警鐘が鳴った。
でも、訊いてしまったのは、
俺の予測が間違いであってほしかったから。
「そんなことあるわけない」と笑い飛ばしたかったから。
けれど

「年齢?26歳」

何も知らない朱里さんの答に、一瞬息が止まりそうになる。

今26歳なら、12年前は14歳。
間違いなく中学生だ。

“顔もよかったとか?”
“うん、そうだったと思う”

美紅との会話を思い出した。
確かに、真矢さんなら当時はさぞ美少年だっただろう。

「確か真矢さんの実家って、お祖母さんの家の近くでしたよね」

もうやめろ!心の中で思いながら、だけどやっぱり訊いてしまった。
お願いだ、違うって言ってくれ。
真矢さんの実家は京都の有名な料亭だ、とか。
そう言ってほしい。

だけど・・・

「ええ、そうなの。偶然で驚いたわ。でも蒼祐くん、よく知っているわね、美紅から聞いたの?」

朱里さんの答えは、俺にとってあまりにも非情だった。

神様、嘘だと言ってください。
それが駄目なら時間を巻き戻して、聞かなかったことにしてください。
無理だというならせめて、今知ったことをすべて忘れさせてください。

願いは叶うはずもない。
事実はまぎれもなく事実でしかなく、時間は巻き戻せない。
そしてもちろん、聞いてしまったことを容易く忘れることも決して出来ない。
決して・・・。



それから、朱里さんとどんな会話を交わしたのか、正直言って全く覚えていない。
ただ、殊更に明るい話題を振って、朱里さんを笑わせた。
今、知った事実。
それは絶対に朱里さんに悟られてはならないことだ。

数十分後、朱里さんを駅まで送ってから、ようやく俺は緊張から開放された。
安心した、という気分には到底なれなかったけれど。

I saw Mommy kissing Santa Claus
Underneath the mistletoe last night.

帰り道、商店街のBGMはもちろんクリスマスソングだった。
「I saw Mommy kissing Santa Claus」邦題は「ママがサンタにキッスした」
あどけない少年の声が続く。

Oh, what a laugh it would have been
If Daddy had only seen
Mommy kissing Santa Claus last night

「パパに話したらきっと面白いことになるぞ、昨夜ママがサンタにキッスしてたって」

でも、パパはきっと認めないだろうね。
だって、そのサンタこそはパパなんだから。

サンタクロースの正体なんて知らないほうがいい。

ましてや、自分の彼女の初恋の相手なんて知るべきじゃない。

どうして知ってしまったんだろう。
知らなければよかった。
知りたくなんか、なかった。

レモンシャーベットのように Part17 Winter Wonderland1


レモンシャーベットのように Part17 Winter Wonderland1


12月24日、金曜日。
ずっと待ち焦がれていたはずのこの日。
だけど。
俺は憂鬱な気分で朝を迎えた。

昨夜は殆ど眠れなかった。
美紅の顔、朱里さんの顔、真矢さんの顔、そして想像にすぎない幼い美紅と少年の真矢さん。
それが、かわるがわる浮かんできて・・・。
一体どうすればいいんだ。
いや、どうすることもできないんだけど。

知ってしまった秘密、その大きさに押しつぶされそうになっていた。

誰にも知られてはならない。
朱里さんにも、真矢さんにも、そしてもちろん美紅にも。
事実を知れば、きっとみんな傷つくだろう。
だけど、一生秘密を持ち続けるなんて、そんなこと俺に出来るんだろうか。
そして、美紅に秘密を持つことは果たして許されることなんだろうか。

しっかりしろ!
洗面台の鏡に映った自分の顔に向かって強く言い聞かせる。

美紅を傷つけないための嘘は罪じゃない。
たとえ、罪だとしても、美紅を守るためなら罪人にだってなる。
その覚悟がなければ、恋なんてするもんじゃない、そうだろう。

ふと、真矢さんの端正な顔がよぎった。
会ったのは一度きりだけど、男の俺から見ても魅力的な人だった。

顔立ちだけじゃない、身長も社会的地位も、そして、なによりも人間としての器までもが。
真矢さんは全て俺よりも上だ。
「美紅は本当に俺でいいんだろうか・・・」
振り払っても、振り払っても襲ってくる思い。
俺は、真矢さんに勝てない。
美紅がもし、事実を知ったら、俺に失望するんじゃないだろうか・・・。

馬鹿野郎!何を考えてる!
しっかりしろ!!

今一度、自分に言い聞かせる。

俺がただひとつ真矢さんに優っているものがあるとすれば、それは間違いなく美紅への愛、それだけだ。

電話が鳴った。美紅だ。

慌てて携帯を取りに部屋に戻る。

「美紅・・・」
“おはよう、蒼くん”
「ああ、おはよう・・・」

いつもと変わらない、明るい美紅の声。
荒れて、冷え切っていた心の中に温かいものが流れこんでくる感じがする。

“どうかしたの?”
「いや、どうもしないけど、何で?」
“なんだか元気のない声だったから、もしかして具合悪いの?”
「大丈夫、今起きたばかりだからかな」

誤魔化した、美紅を、というより、自分を。

“あ、ごめんね。起こしちゃった?まだ7時だもんね。もうすぐ会えるのに、あたし待ちきれなくて・・・”

不安な気持ちが払拭されていく。
愛されている、そのことが今の俺に何よりも勇気をくれる。

「いや、嬉しいよ。ありがとう。待ってるから」
“うん、じゃあ、あとでね”

ゆっくりと携帯を閉じる。

何があろうと、俺は美紅を守る。
美紅を傷つける全てから。




せっかくのイブに気の毒な蒼くん。
無事にこの難局を乗りきれるのでしょうか・・・

レモンシャーベットのように Part18 Winter Wonderland2

Part18 Winter Wonderland2


9時15分、待ち合わせの15分前だけど、美紅はもう駅に来ていた。
ファー付きの赤いコートに、やっぱりファーの付いた白のブーツ、サンタガールだな。でもどっちも見覚えがない。

「おはよう、可愛いね。コートとブーツ、昨日買ったの?」
「ありがとう。うん、でも昨日買ったのはコートだけ」
「だけどブーツも初めて見た」

別にさほど女の子のファッションに関心があるわけじゃないけど、美紅には大いに関心があるから、持っている服や靴は大体知っている。

「前から持っているのに、ファー付けてシューレース変えただけ。一から買うと高いけど、これだったら1000円ちょっとですむから」
「へえ・・・」

美紅の家は金持ちだから金銭感覚が庶民とは違うかと思っていたけど、全くそんなことないんだな。ごく普通、というよりずいぶんしっかりしている。
家計を任せても安心だな、とか密かに思ってみたりして。

「ありがとう、いろいろうれしい」
「いろいろってなにが?」
「新しい服に気づいてくれたこと、でもブーツには騙されてくれたこと。それと、可愛いって言ってくれたこと」

美紅が腕を絡めてくる。

「大好き」

美紅の言葉に心の中が温かいもので満たされていく。

「俺も・・・」

美紅の華奢な体を抱き寄せて囁く。
何があろうと絶対にこの幸福を手放したくない。
左手に力を込める。
昨夜の悪夢を振り払うように・・・。

「どうかしたの?」

美紅の言葉にどきりとする。

「どうもしないけど、どうして?」
「今朝からいつもとちょっと違う気がするから」
「そんなことないよ」

と答えたけど、やはり美紅には「いつもと違う」とわかってしまうんだろうか。
いつも通り、いつも通りって言い聞かせてみるけど。
いつもの俺ってどんな感じなんだ。「自然に」と思えば思うほど「不自然」になってしまうような気がする。
ポーカーフェイスってどうやるんだろう。藍崎なら上手そうだけど、俺はきっとギャンブラーにはなれないな。

「うーん、具合が悪いとかじゃなければいいけど」
「全然悪くない、元気、すごい元気」
「そう、よかった」

美紅はくすっと笑った。
多分、納得はしてないけど、追求しないでおこう、と思ってくれたんだろうな、なんだか
美紅に申し訳ない。
美紅を不安にさせることだけはしたくない。

しっかりしなきゃ・・・。



蒼くん、悩みすぎ・・・。
美紅ちゃんのブーツは「虹色マカロン」で初デートの時に履いていたやつです。

レモンシャーベットのように Part19 Winter Wonderland3

Part19 Winter Wonderland3


「えっと、これからどうする、映画でも見る?」

何とか話題を変えようと苦し紛れの台詞に美紅はにこっと笑った。

「うふふ・・・なんかなつかしいね」
「え、なつかしい?なんで」
「初めてのデートのときも蒼くん、そう言った」
「そうだっけ?あ、そうだ、思い出した。だけど雨降りそうだったからうちに来たんだ」
「そうそう・・・」

まだお互い二人でいることに慣れてなくて、すごく緊張してたっけ。
しかし、同じ台詞しか言えないって、俺って成長してないのかな。

ともあれ、シネコンのあるモールに入ってみる、でも。

「混んでるね」
「うん、一応平日のはずなんだけどな・・・」

さすがイブだ、というべきか。受付の前は大勢のカップルで長蛇の列だった。このぶんだと並んでいるうちに席が無くなってしまいそうだ。

「もっと空いてるときにしない?そのほうがゆっくり観れるし。どうしても今日観たい映画があるなら別だけど」
「いや、別にないよ」

そもそも話題変えるのが目的だったりするから、何がかかっているかも知らなかった。計画性のないところも全然進歩してないなあ。
・・・真矢さんだったらきっとスマートにエスコートするんだろうな。
ついそんなことを考えてしまった。
いけない、今そのことは考えるな、と思いながら、だけど、考えないようにすることの難しさをひしひしと感じてしまう。

「あとでDVD借りに行こうか。あの時みたいに」
「うん!」

美紅の笑顔に救われる。
この笑顔を守りたい、心からそう思った。



結局、他に何も思いつかず、けれどせっかく街に出てきたのにすぐ家に行くのも勿体無いから、ウィンドウショッピングをして、カフェでサンドイッチとコーヒーの軽い食事をとったあと、今夜の食材を買うために食品スーパーへ向かった。
実は食品スーパーってわりと好きだったりする。
いや、一人だと何とも思わないけど、美紅と二人で相談しながらあれこれと食品を選ぶのは楽しい。「未来もきっとこうなんだろうな」とか思うと気分が浮き立ってくる。

美紅はあらかじめ丸鶏を予約していたとかで、まず精肉売り場へ向かう。
受け取ったチキンは想像していたより小さかった。このくらいなら食べきれそうなサイズだ。

「チキンって意外に小さいんだな」
「若鶏だから。親鶏だともっと大きいよ。グラム指定してたの、オーブンに入らないと困るでしょ」

なるほど・・・。
しかし、美紅ってほんとにしっかりしてるなあ。って、感心してる場合じゃないな。

そのあと魚とか野菜とか果物とか、いろいろなものを買った。
何ができるのか期待が膨らむ。
これからのことが楽しみで。
もう、昨日のことは忘れかけていた。




やっと浮上、比較的平和なパート。もちろんこのままでは終わりませんが・・・。

レモンシャーベットのように Part20 Winter Wonderland4

続きです。いつの間にか20回。そして終わる気配なし。「マカロン」より長いじゃないか。
お付き合いくださるかた、感謝です。


Part20 Winter Wonderland4


電車を降りて、アパートまでの道を手をつないで歩く。
もう最近はすっかり習慣になっていて、当然のことなんだけど、初めて手をつないだときの緊張と興奮は今でもはっきり覚えている。
美紅とともに過ごした時間はまだ1年に満たないけれど、いろんなことがあった。今までとは比べものにならないくらいに。
ゆっくりと少しずつ育ててきた愛。時折雨や嵐にさらされることはあっても、そのたびに二人で乗り越えてきた。そして、これからもきっと。
左手に力を込める。あの時、緊張しながら握った柔らかな美紅の掌、それが今は安心と幸福を与えてくれる。

駅から5分のところにあるレンタルショップに入る。ここも今では二人にとって馴染み深い場所になった。

「何観たい?」
「うーん・・・」

美紅は棚の前で考えこんでいる。眉根を寄せている表情もなかなか可愛い。ほんとはDVDを借りてきても画面より美紅の顔見ている時間のほうが長かったりするし、そのほうが楽しい、美紅には内緒だけど。

「クリスマス関連のはレンタル中のが多いよね、季節とか考えなくてもいい?」
「いいよ、真夏の映画で水着のおねえさんがたくさん出るのでも」
「えー、それはやだ!」

睨まれてしまった。いけない、浮かれて調子に乗りすぎたかな。

「あ、これまだ観てない。これにしようかな」
「なに?」
「トワイライト・初恋・・・」

突然現れたキーワードに思わず言葉を失う。振り払ったはずの悪夢が再び襲いかかってきて、背中に冷たい汗が流れた。

「蒼くん?」

美紅が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
今、俺どんな顔してるんだ。

「大丈夫?顔色悪いよ」
「なんでもないよ、美紅の好きなのにしたら」
「うん・・・」

美紅は不審そうな顔だ。何か気づかれた?

「それともこっちにしようかな“初恋のきた道”」

今度こそ、息が止まりそうになった。
どうする、話題を変える?でもなんの話をすればいいんだ。
俺が答えに窮していると

「やっぱりやめた!」

美紅はそう言ってにこっと笑った。

「え?」
「考えてみたら、料理作らないといけないからあんまり観る時間ないし、食べてるときは映画観るより話してるほうが楽しいしね。そうだ、CD借りよう、音楽だったら聞きながら作業できるし。クリスマスソングあるかなあ」

美紅は俺の手を引っ張ってCDのコーナーへ移動した。
助かった・・・。
だけど。
多分、何か気づいただろうな。

本当に駄目だ、俺。

こんなことで、これから先大丈夫なんだろうか。



再び暗雲・・・。
どうも大丈夫じゃないような気がする。

レモンシャーベットのように・・・ Part21「Winter Wonderland5」

Part21「Winter Wonderland5」


部屋に着いて、俺は美紅の言葉を実感することになった。
「料理つくらないといけないからDVDを観る時間ない」
本当にそうだった。

美紅はものすごく気合いが入っていて、いつもなら料理かデザート、どちらかを作って、あとは市販品にするんだけど、今日は両方とも自分で作るらしい。

で・・・。
卵を泡立てるだの、小麦粉を計ってふるうだの、いろんな作業が次々と回ってきて、目が回るほど忙しかった。

ケーキのほうが一段落すると、今度は料理。
チキンに塩胡椒をするだけのことなんだけど、これが意外に辛かった。
ステーキを焼くのとは違い、肉の塊に粗塩を摺りこんでいくわけだけど、胡椒の刺激と相まって、ものすごくしみる、はっきり言って痛い。
顔をしかめている俺を気の毒に思ったのか、美紅が「代わろうか?」って、言ってくれたけど、他に役に立ちそうなこと思いつかないし、何より美紅に痛い思いはさせたくない。


そのうちに甘い香りが部屋に漂ってきた。どうやらケーキが焼けたらしい。
オーブンシートが敷かれた天板に、ココア色のスポンジケーキがきれいに焼きあがってきた。型は使わない、なにが出来るんだろう。

ケーキと入れ替わりに、チキンがオーブンに入る。200度で1時間40分。
それにしても、美紅と付き合うまで弁当を温めることにしか使ってなかったオーブンレンジがこんなに働く日が来るとは。きっとオーブンも満足だろうな。

「おつかれさま、ちょっと休憩しようか」
「うん・・・」

美紅の言葉にちょっとほっとしながら、キッチンの片付けをしていたら、ボウルに入った卵白が目に止まった。
さっき、あとでケーキに使うためのカスタードクリームを作った。カスタードクリームには卵黄しか使わないから、卵白だけ残っている。

「美紅、これは?捨てていいのかな」
「あ・・・。いけない、忘れるところだった。もうひとつ作るものがあるの。卵白泡立てないと」
「じゃあ、俺がやるよ」
「いいの?疲れてるでしょ、いっぱい手伝わせちゃったし・・・」
「いいよ、このくらい。俺で役に立つことがあれば、どんどん使って」
「そう、どうもありがとう。だったらお願いしようかな。お砂糖計っておくから」

ボウルの中には淡い黄色のどろりとした卵白。それが泡立て器でかき混ぜるうちにどんどん白く、ふわふわとした全く別のものになってゆく。これってなんだか理科の実験にも似たワクワク感がある、って言ったら変かな。

「で、これで何つくるの?」
「レモンシャーベット・・・」

言いながら美紅は冷凍庫から金属製のボウルを取り出した。そういえばさっきレモン絞って火にかけていたっけ。砂糖入れていたから、ケーキに使うのかと思っていた。

「わあ、きれいなメレンゲ。やっぱり男の人は早いね」

美紅は凍ったレモンジュースをスプーンで砕くと、そこに泡立てた卵白を入れて混ぜあわせた。

「シャーベットってそうやって作るんだ。ジュース凍らせたら出来るのかと思ってた」
「もちろんそれでもいいけど。メレンゲ入れると口に入れたときにふわっと優しく溶けるから、あたしはこっちのほうが好きかな。レシピに初恋の味とか書いてあ・・・」

美紅の言葉が途中で止まった。なんとなく気まずい沈黙。言いかけてやめたってことは、やっぱり今朝から何か気づいていたんだろう。

ボウルが冷凍庫に戻される。
パタン・・、という音がやけに大きく響いた。

「ねえ、蒼くん・・・」

美紅が振り向く。まともに目が合った。

「聞いてもいいかな・・・」

心臓の鼓動が早くなる。
何を聞かれるんだろう。
俺は・・・
ちゃんと答えることが出来るだろうか・・・。




やっとシャーベットが出ました!ラストスパート!!のはず。
いやスパートかけられるかどうかは自信ないですが(弱気)でも、やっとラストが見えてきた感じです。
ところで卵っていろいろ不思議ですよね。泡立ったり固まったり、こんなに変化する食材って他にないんじゃないかな。メレンゲってふわふわできれいだなあと子供の頃思ってました。


レモンシャーベットのように Part22 Winter Wonderland6

Part22 Winter Wonderland6


「間違ってたらごめんね」

美紅は俺をまっすぐに見つめて言った。

「蒼くん、あたしの初恋の人が誰なのか知ってるんじゃない?」

え・・・。

息ができない、それくらい驚いた。
まさかいきなり、ど真ん中にストレートの豪速球を投げてくるとは思わなかった。
為す術も無くボールの行方を見送るバッターのような気分。
どうしたらいい。
なんて言ったらいいんだ。

「そ、そんなはずないだろ・・・」

情けないけど、声が震えている。それが自分でもわかったけど、どうしようもない。

「美紅も知らないことを何で俺が知ってるんだ」

やっぱり言えない。
美紅に嘘をつくのはいやだけど、これだけは。
そう思った、だけど。
美紅の次の言葉はさらに俺を驚愕させた。

「あたしは、知ってるよ・・・」

今度は変化球だ。喩えるなら、緩いカーブが内角ギリギリのところに決まった、そんな感じ。
頭が混乱して、さらにどうしたらいいかわからなくなった。
知ってる?美紅が?何を?どこまで?
ツーストライク、完全に追い詰められてしまった。
言葉を失っている俺に美紅が次の球を投げ込んできた。

「蒼くんも知ってるでしょ、その人のこと」
「美紅、知ってたのか、初恋の中学生が真矢さんだって、あ・・・」

・・・何やってるんだ。自分で言ってどうする。嘘のひとつも満足につけない自分が心底嫌になる。

最後の球は、フォークかな。すうっと落ちる球に幻惑されて思わず振ったバット。キャッチャーミットに吸い込まれたボールが見えるような気がした。
3つめのストライクを取られてあえなくバッターアウト、完敗だ。すっかり美紅の術中にはまってしまった。
自己嫌悪に苛まれている俺を見て美紅はふっと笑った。
傷ついてるふうはない、やっぱり知っていたのか。その様子に少しだけ安堵する。

「どうして?」

もう、何に対する「どうして?」なのか自分でもわからなくなっていたけど、それしか言葉がでない。

「蒼くん、昨日、おねえちゃんとランチに行ったでしょ、真矢さんの代役で」
「知ってたんだ、朱里さんから聞いたの?」
「うん。当たり前でしょ、そんなこと隠されたらやだ」

そんなもんかな、女きょうだいって。俺は同じようなことがあっても聞かれなければ弟にわざわざ報告したりしないけど。え、でもこれって、ひょっとしてまずい展開?

「でもその、俺は別に隠してたとか、そんなんじゃなくて・・・」
「わかってる、自分からは言いにくいものね、おねえちゃん守ってくれてありがとう」
「あ、いや、そんな・・・」

正面きってそう言われると照れてしまう。でもやましい気持ちがなかったのは事実だし、わかってくれて嬉しい。

「なんの話したの?って聞いたら、“やたらと真矢さんのことを聞かれたような気がする、なんで医者になったのかとか、出身はどことか”って。で、こないだ初恋の話して喧嘩したばかりだったし、わかっちゃったかなあ、と思って」

そういうことか。今まで悩んでいた自分はなんだったんだ、と思わなくもないけど、とにかくほっとした。やっぱり隠し事は苦手だ、つくづくそう思う。




一段落です・・・。
やっとちょっと落ち着いた蒼くん。でも、この話はもう少し続きます。
シャーベット、まだできてないですしね。
追記から、拍手コメントくださった方へ返信です、いつもありがとうございます。

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レモンシャーベットのように Part23 Winter Wonderland7

Part23 Winter Wonderland7

「今日、いつもと様子がちがったのはそのせい?あたしとお姉ちゃんに気を遣って悟られないようにしないと、って思って緊張してたから?」
「うん・・・」

全面自供。美紅は鋭い、女の子ってみんなこうなのかな。それとも俺がよほどヘボいとか、多分両方だろうな。

「はあー、でもよかったあー!」

美紅はふうっと息を大きく吐き出すとそう言った。

「すっごいドキドキした、怖かった」

ドキドキ?怖い?
美紅が、なんで?
ドキドキして怖かったのは俺のほうなんだけど。

「蒼くん、朝電話したときから様子がおかしかったし、“初恋”って言葉聞くたびに顔色変えるんだもん」

顔色変わってたのか。
本当、慣れないことはするもんじゃない。

「まさかとは思ったんだけど。もしかして、りさちゃんに思いがけず再会して“約束憶えてる?”とか言われたんじゃないかとか。そんなことないよね」

りさ?
あ、小2のときに手紙くれた子か、素で忘れてた。そういえばそれが原因でこの間喧嘩したんだっけ。

「蒼くん?」
「あ、いや、ないない。てか、今誰のことか一瞬わからなかった」
「本当に?」
「うん」

美紅はもう一度、大きく息を吐き出した。
さっき「初恋の味」っていいかけて微妙な顔をしたのは、それが原因だったのか。俺が悩んでいる間、美紅も悩んでいたんだ。全く別の方向で。

「この間、“隠し事はしない”って言ってたから信じてたけど、やっぱり気になって」

そういえばそんなこと言ったな。この間大学のカフェで藍崎と会ったときに。

「だけど、結果的に隠し事することになってしまって。それに朱里さんのことも、もし美紅を不安にさせてしまったんだったらごめん」

俺は美紅に頭を下げた。美紅がくすっと笑う。

「いいよ、もう。どっちもあたしとお姉ちゃんのためだったんだし。それに蒼くんが嘘つけない性格っていうのがよくわかったから」

美紅の笑顔に癒される。
本当にできた彼女だ、今まで以上に大切にしなければ、と改めて思う。

「蒼くん・・・」
「なに?」

緊張がとけて、ちょっといいムードかな。今日初めての甘い展開とか。

「やっぱり休憩する前にケーキのデコレーションまでやっておきたいの。生クリームの泡立てやってくれる?今日3回めで申し訳ないけど」

甘い展開って、そっちですか、美紅ちゃん。
期待してた自分が恥ずかしい。だけど、まあ、いいか。
全卵、卵白の次は、生クリーム。正直、だいぶ腕が疲れてきたけど、雪のように真っ白なクリームは今の清々しい気分にぴったりな気がした。


更新遅くてすみません。もう少しスピード上げていかないと夏になってしまう。いえ、まさかそんなことはないですが、ないと思います。

蒼くんと美紅ちゃん、似たもの同士ですね、相変わらず。
そして相変わらず傍から見てるとアホらしくてやってられません・・・。

続きは拍手くださった方への返信です。どうもありがとうございます

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レモンシャーベットのように Part24 Winter Wonderland8

Part24 Winter Wonderland8


「このくらいでいいかな?」

サラサラだったクリームが空気を含んでふんわりとしてきた。

「うん、大丈夫。ちょうどいいくらい。蒼くんってほんと覚えるの早いよね」

と、美紅は言ってくれたけど。
実は前に生クリームの泡立てをやったとき、張り切ってやりすぎて分離してしまったことがある。「バター作っちゃったね」って美紅は大笑いしていた。料理は難しい。

「じゃあ、あっちのテーブルでデコレーションするから一緒に来て」
「キッチンじゃなくて?」
「うん」

焼きあがった薄い正方形のケーキ、カスタードクリーム、それに今出来たばかりのホイップクリームを持って、部屋のテーブルに移動する。
何かパフォーマンスでもあるのかな。
美紅の手元に注目していると、美紅はまずケーキをナイフで3等分して、レースペーパーの敷かれた長方形の銀のトレイに載せた。
そこにカスタードクリームを塗り、2枚めのケーキを重ねる。同じことをもう一度繰り返すと、ココア色をした3層の長方形のケーキになった。

「はい、土台ができました。ここはペンシルバニアの公園です」
「ペンシルバニア?」

ペンシルバニアはアメリカ東部の州だよな、なんでいきなり?

「雪が降ってきました」

美紅の声とともに、ケーキにホイップクリームが塗られてゆき、ココア色だったケーキは真っ白に姿を変える。

「そこに男の子と女の子がやってきます。ふたりは雪だるまを作りました」

ケーキの上に、メレンゲでできた男の子と女の子。そして二人に向かい合う形でふたりより少し大きめの雪だるまが載せられた。
うーん、かわいいけど、何か意味があるのかな。

「蒼くん、CDかけてくれる?さっき借りてきたクリスマスソングの5曲目」
「あ、うん」

流れてきたのは「Winter Wonderland」
明るい曲調の定番のクリスマスソングだ。この時期、デパートのBGMなんかでよく流れていて、どちらかというと歌詞の入ってないインストゥルメンタルで聴くことのほうが多い。
だけど、このCDは英語の歌詞で女性のヴォーカリストが歌っているものだった。アルトの落ち着いた声が耳に快い。

「これの舞台がペンシルバニアの公園なの」
「へえ・・・」
「このあと、よく聞いていてね」

In the meadow we can build a snowman
雪だるまをつくろう
And pretend that he is Parson Brown
彼をブラウン神父にさせよう
He’ll say, ""Are you married?""
彼はこう言うよ「あなたたちは結婚してますか?」
We’ll say, ""No, man""
ぼくらは答える「いいえ、神父さま」
But you can do the job while you’re in town
だけどあなたが町にいる間に出番がありますよ

「これ、そういう曲だったんだ」
「うん、そう。クリスマスソングっていうより、ラブソングでしょ」
「じゃあ、可愛らしいブラウン神父さまに誓って、汝、柚木美紅、あなたは橘蒼祐を夫とし、生涯愛することを約束しますか?」
「はい・・・。では、汝、橘蒼祐。あなたは柚木美紅を妻とし、生涯愛することを約束しますか?」
「はい」

短い言葉に万感の思いを込めて答える。
これから先、一生涯、愛する人は美紅ひとり。
美紅の柔らかな唇に自分の唇を重ね、改めてそう心に誓った。



もめごとが片付いたとたんに、なに、この超恥ずかしい展開は。
いったい何度結婚式のマネゴトやったら気が済むんでしょうか。
でもまあ、やっと甘くなってほっとしました。
次章で最終章になります。
おさまるところにおさまる、かな?
そして、たぶんそろそろシャーベットもできたはず・・・。

腹筋は割れてるのがいいのだろうか?+レモンシャーベット番外編

ちょっと前に、ツイッターで男性のフォロワーさんが、「私の腹筋は割れている、夢の中では」とつぶやいてらしたのを聞いて思ったんですが。
やっぱり、男性にとって腹筋割るのは夢なんでしょうか?
アジア人は筋肉量が多くないので、結構大変そうな気がする。でも、韓国のアイドルグループとか、確かに割れてる人いますよね。
私はあまり仮面ライダーみたいな腹は好みじゃないですけど。これって、男性のすべてが巨乳好きってわけじゃないのに、胸の大きさを気にする女子が多いのと同じようなもんなんでしょうか。
で、うちのキャラだったら。
どうも蒼くんは割れてそうだ。体苛めるの好きとか、そういうアスリートM(そんな言葉があるかどうかは知らんが)の傾向がありそうだし。絶対腕立てと腹筋背筋は毎日やっていると思う。
藍崎くんのほうは、設定上、蒼くんより細身なのであまりがっつり割れてないかな。真ん中に筋が入っている程度とか。
などということを考えているうちについ書いてしまった、レモンシャーベット腹筋編じゃなくて番外編。
イブのデートの前日、美紅ちゃんのほうはどうしていたかというお話です。
女子会でのガールズトークです。なつかしい人と初登場の人が出ます。
R指定とかないですが、会話が少々アレですので、追記に載せておきます。OKの方はどうぞ。

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