Cotton Candy (前編)

藍崎くんを書きたくて突発短編。「秋」テーマのつもりです。


Cotton Candy (前編)


春も夏もそして冬も、陽は西の空に沈む。
だけど、秋の夕陽は殊更に美しく感じるのは何故だろう。

帰り道、もう少し夕陽を見ていたくて、俺はいつもとは違う道を通った。
河原のグラウンドで子供たちがサッカーに興じている。
そう、小学校のなかばくらいまで、俺もあんなふうだったな。
ただ、ボールを蹴っていれば楽しかったし、幸せだった。

ベンチに腰掛けて、しばらくそうしていたら、後ろから缶コーヒーを持った手が伸びてきた。
驚いて振り向くとそこにいたのは同じ学部の藍崎洋介だった。

「藍崎・・・」
「飲むか?」
「ああ、サンクス」

藍崎の手から缶コーヒーを受け取る。
少し肌寒くなってきたから、温かいコーヒーはありがたい。
藍崎は俺の隣に腰を下ろすと、自分のぶんのコーヒーのタブを開けて一口飲んだ。

「ひとりか、珍しいな。彼女は?」
「美紅は同じゼミの友達とコンサートに行くとかで、今日は先に帰った」
「女の子と?」
「7,8人のグループで、男も混ざってるらしい」
「そういうの気にしない性質(たち)?」
「うーん・・・」

しばらく考える。

「全然気にならない、って言ったら嘘になるかな。でも俺がそこまで縛られたらやっぱりいやだと思うし、彼女を信じてるから」
「惚気やがって・・・」

藍崎はなんだか楽しそうだった。何も面白い話をした覚えはないんだけど。藍崎とは高校のときから顔見知りだけど、どうも何を考えているのかよくわからない。

「橘、お前なんで・・・」
「え?」
「あ、いや、何でもない・・・」
「何だよ、気になるな」
「ひとつ訊いていいか」
「何を?」

藍崎は俺の顔をじっと見つめた。
こうして見るとつくづく綺麗な顔だ。男にしておくのは惜しい。いや、だからといって藍崎をどうこうしたいとか断じてないけど。

「好きな女を抱くってどんな気持ちなんだ?」

なななな、なんてこと聞くんだ。いきなり。驚きすぎてコーヒーが気管に入ってしまい盛大にむせてしまった。

「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫だけど。お前がいきなりとんでもないこと聞くからだろ!」
「そうか、すまん」

全然済まなそうにみえない顔で藍崎が言った。もう、なんなんだ、こいつは。

「藍崎は彼女いないのか。いつも女の子に囲まれてるけど、そういう関係じゃないとか?」
「そういう関係とは?」
「だから恋人とか、その、ええと・・・」
「恋愛感情があるかってことならNo。肉体関係があるかってことならYes」
「れ、恋愛感情もないのにそういうことしてるのか?!」
「別にいいだろ、お互い納得してるんだし」

り、理解不能の世界だ。

「女の子好きになったことないのか?」
「たぶん・・・。で、どういうのが恋愛感情なのかわからないから一度お前に聞いてみたくなって」
「うーん。たくさんいる人の中で、その人だけが誰よりも輝いてみえるっていうか、どんなに遠くからでも一目でわかるし、気づいたらその人のことばかり考えていて、自分のことどう思ってるんだろうとか、いつも気になってしょうがない、そんな感じかな。うまく表現できないけど、そう、俺にとって唯一特別な存在。誰にも美紅の代わりはできない」
「唯一特別な存在、か。なんだか羨ましいな」

藍崎はそう言うと立ち上がった。



相変わらずとんでもねえこと言い出す奴ですね、すいません。
藍崎くんが蒼くんに聞きたかったのは全然別のことだったりしますが、それはまた次の機会に。
綿アメも次回です。
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Cotton Candy 後編

後編です。
前半の藍崎くんをゆささんに捧げます(笑)かっこよくみえるといいのですが・・・。

Cotton Candy 後編

「いろいろ参考になったよ。じゃあ、またな」
「ああ、コーヒーご馳走様」

藍崎は軽く右手を上げると歩きだした。
そして自動販売機の前で、立ち止まりもそちらを見ようともせずにコーヒーの缶を投げた。
と、缶はものの見事に「あきかん」と書かれた丸い孔の中に吸い込まれていった。
う、くそ、かっこいいな。何であんなことができるんだ。顔がいいだけじゃなくて、そういうところももてる要因なんだろうな、いや、別にうらやましくなんかないぞ。

ホイッスルが鳴った。
試合終了か、途中から忘れていた。
子供たちが一斉にベンチへと戻ってゆく。
それをしおに俺も立ち上がった。
自動販売機の前で、藍崎の真似をしてみようかと一瞬思ったが、失敗したときに缶を拾いにいく情けなさを思うと実行できず、しっかり狙いをつけてから投げた。
缶は孔に吸い込まれ、軽い音を立てた。ちゃんと見てれば入るんだけどな、俺だって。

陽は完全に落ちて辺りはもう薄暗い。
やっぱり、隣に美紅がいないのはさびしいな、そんなことを思いながら家路についた。



その夜。
9時過ぎに携帯が鳴った、美紅からだ。急いで電話に出る。

「もしもし、美紅?コンサート終わった?」
“うん、今帰る途中。今日ね、お父さんもお母さんもいないんだけど”
「朱里さんは?」
“デート”
「じゃあ迎えに行くよ。今どこ?駅?」
“ううん”

美紅がそう答えると同時にドアが開いた、そして。

「ここ・・・」

ピンクのワンピースを着た美紅が携帯を手に照れたような表情で立っていた。

「みく・・・」

すごいサプライズ。
俺は美紅の傍に駆け寄り思い切り抱きしめた。

「コンサートのあと、みんなで飲みに行こうって言ってたんだけど、どうしても蒼くんに会いたくて、用事があるって、あたしだけ電車降りちゃった」

なんだかものすごく感激してしまった。好きな人がいるって、そしてその人が自分を好きでいてくれるって素晴らしい。
俺は美紅の桜色の唇にキスした。

「甘い・・それにイチゴの香りがする」
「あ、うん。さっきコンサート会場の前でコットンキャンディ売ってて。これなんだけど」

美紅は大きめのペーパーバックからシュガーピンクのコットンキャンディを取り出した。

俺にとっては美紅がコットンキャンディだ。甘くてふわふわで、いいにおいがする。
そういえば、今日着てる服もピンクだし、ぴったりだ。

「ふたりで食べようと思って買ったんだけど、ちょっと味見しちゃった」
「うん、とにかく中入って」

今、すごく幸せ。
甘いザラメが空気を含んで雲のように膨らんだコットンキャンディ、まさにそんな気分。
美紅の肩を抱きながら俺はそんなことを考えていた。



ふと藍崎の顔が浮かんだ。

“好きな女を抱くってどんな気持ちなんだ?”“唯一特別な存在、か。なんだか羨ましいな”

藍崎は、いつも女の子に囲まれて楽しそうだなと思っていた。

でも・・・
もしかしたら
「幸せ」というわけではないのかもしれない・・・。




藍崎くんはなんでそんなことができるのか。
実はちゃんと理由があります。
もちろんスゴイ技ではありますけどね。
ちょっとライバル心を燃やしてる蒼くん、こういうことに燃えてしまうって男の子っぽいなあ。
藍崎くんも蒼くんがいたからやってみせたんでしょうけど。
美紅ちゃん唐突の登場は「こいっていいですよ」って感じでしょうか?ブレンディでカフェオレつくって飲むといいよ、寒いし。いや、熱いか、ははは・・・。毎回恥ずかしい。