虹色マカロン 碧の章 (前編)

お待たせしました、って待ってた人いるのー?!
やっと書けました。「虹色マカロン」の3原色の一角、中川碧さん視点です。同じ話なので、今後の展開はすでにネタバレしてますが、よろしければどうぞ。


虹色マカロン 碧の章


3月11日、木曜日。

わたしは、母に頼まれ、祖母の好物の羊羹を買うためにデパートを訪れていた。
デパートは普段あまり訪れることのない場所だ。買い物には興味がないし、人込みも苦手、ついでに人付き合いも苦手だから、一緒に行く人もいない。
そのことを今まで淋しいと思ったことはない。わたしにとって今まで他人は常に煩わしいものでしかなかった。

大学が終ったあとの平日の午後を選んだのも、休日の混雑を避けたいと考えたからだ。
真っ直ぐに、地下のお菓子売り場に向かう。そして、和菓子売り場で目的の小豆と抹茶羊羹のセットを買い、実家への配送の手続きを済ませた。

用事は済んだ、早く帰ろう。
エスカレーターは洋菓子売り場の近くだ。
ホワイトデーが近いためか、どの店もクッキーや、ホワイトチョコレートを使ったお菓子に力を入れていて、いつもより一層甘い香りが濃い気がする。
そこで、この場所にあまりそぐわない人物を見かけた。

橘蒼祐、同じ学部の同学年で、すごい美男というわけではないが、厭味のないすっきりとした顔立ちで、運動神経抜群。性格は気さくで真面目、講義もきちんと出ていて教授陣からの覚えもめでたい、所謂ポイントの高い男子だ。

わたしは比較的彼と同じ講義が多くて、よく見かけるのだけど、あまり甘いもの好きなイメージはなかった。
パンも惣菜系のものを食べているし、コーヒーも無糖のブラックを飲んでいたから、甘いものは苦手かと思っていた。
それが、色とりどりのマカロンの売り場で真剣な表情でどれを買うか選んでいるなんて。
もしかして「隠れスイーツ男子」だったのかしら、なんとなく興味をひかれた。

「橘くん?」

彼が買い物を終えるのを待って声をかけてみた。彼が振り返る。

「中川さん・・・」

「マカロン、好きなの?」

意外そうな顔でこちらを見つめる彼に聞いてみた。

「いや、実は一度も食べたことない。これもプレゼント用だし。あ、そうだ、せっかく会ったから、これ、先月のお返し」
「あら、ありがとう。憶えていてくれたのね」

プレゼント、ああ、そうだった、ホワイトデー。渡された可愛らしい紙包みはたぶん義理でもらったチョコレートのお返しのつもりなのだろう。
でも、彼が一月前にもらったチョコレートに義理なんかほとんどない。彼にチョコレートを渡したのが誰か、わたしは知っている。皆、かなり真剣だったはずだ。
そんなこと全然気付かなかったって顔ね、能天気な人だこと。なんだかその無邪気さが憎らしいような気分になってきた。

・・・マカロンは、誰にプレゼントするつもりなのかしら。
ふと思った。

マカロンは高価なお菓子だ、学生が気軽にたくさん買える値段ではない。
それをプレゼントする相手が彼の本命なんだろう。

「橘くん、今日はこれから何か予定ある?」

自分でも、何でこんなことを言うのかよくわからない。
けれど、何も気付いていない彼に苛立っていた。少し意地悪をしたい気分だったのかもしれない。

「いや、別に何も・・・」
「そう・・・じゃあ・・・」

わたしは彼の顔を覗き込むようにしながら言葉を続ける。

「これから、わたしと付き合わない?」
「うーん、じゃあカラオケとか、ファミレス?これから友達に連絡してみるよ。中川さんが来るって聞いたら、みんな何が何でも来たいって言うだろうし」

そう言いながら彼はポケットから携帯を出そうとする。
やっぱり何もわかっていない、ますます苛立ちが募った。

「わたしは橘くんとふたりがいいなあ・・・」

そう言って微笑みかけてみた。
彼は呆然としてわたしの顔を見つめている、明らかに動揺していた。

「ねえ、どこに行きたい?なんならホテルでもいいわよ・・・」

もう、
後へは引けなかった。




今まで謎めいていた碧さんの言動が明らかに・・・。
自分の気持ちにどうも気付いてないらしいですね、碧さんは。
やっとプリズム完成、でも、もう一人参戦の予定です、新しい人ですよ、次回出せるといいなあ。
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虹色マカロン 碧の章 (中編)

虹色マカロン 碧の章 (中編)


どれだけそうやって見つめ合っていただろうか。
彼は一言も言葉を発せず、ただ困惑しているようだった。

長い
永遠に続くかのような長い沈黙。
いや、もちろんそれは錯覚に過ぎない。実際の時間にすれば1分足らずの短い時間だったに違いない。

ふいに、なんだか可笑しくなってきた。
何に?明確な答えはないけど、たぶん彼の慌てぶりが思った以上だったからかもしれない。
突然の誘惑に戸惑うことしかできない、彼はどこまでも真面目で真摯だ。

そう・・・
いっそ残酷なほどに。


くすっと笑みがこぼれて、その途端、本当に笑いたくなってきた。堪えきれずに笑い出すと、彼はますます戸惑った様子だった。それがまた可笑しくて笑いが止まらない。

「いやだ、冗談よ。そんなに怯えなくても取って食ったりしないから大丈夫・・・」

笑いながらそう言うと、彼は心底ほっとしたように深いため息をついた。まったくもう正直者ったらありゃしない。

「冗談キツすぎるよ。中川さんみたいな美人にこんなこと言われたら、男なんてバカだからすぐ本気にするぜ」

からかわれていたと思ったのか、彼が抗議めいた口調で言う。

「橘くんもおバカさんなの?」

彼の顔を見上げながらそう言うと、

「男ってみんなそんなもんだろ」

と、ちょっと怒ったように答えた。

「ふうん、わたしにはずいぶんお利口に見えるけど」

と返すと、彼は不思議そうな表情になった。意味がまるでわからない、といった顔だ。失礼かもしれないけど、見ていて飽きない。
ナチュラルってこういう人のことをいうんだろう、どこにでもいそうで、でも今まで出会ったことがなかった。

「やっぱりやめておくわ、用事を思い出したから。じゃあ、また明日ね」

そう言ってこの場を後にする。
あっけにとられたような表情の彼を見て、少し溜飲が下がった気がした。



エスカレーターで一階へ、そして出口へと向かいかけたとき、

「作戦失敗?」

後ろから涼やかなバリトンが聞こえた。
驚いて振り返る。そこにいたのはよく知った顔だった。

「藍崎くん・・・」

藍崎洋介、やはり同学年で同学部。
こちらは誰が見ても美男で、しかもそれを自分で十分に認識している。
常に女子に囲まれているが、決して特定の彼女を作らないのがポリシーらしい。

「女の子はみんな可愛いのに、誰か一人だけを特別な存在にするなんて、そんな不公平なことはできない」
というのが彼の持論だ。

それもひとつの考え方かもしれない、普通の男が言うと「何をバカなことを」と思ってしまうが、なんとなく納得してしまうのは、この並外れた容姿と洗練された身のこなしのなせる業だろう。

「何のことかしら?」

見られていた。
こういう聞き方をするということは、話も聞かれていたに違いない。
それでも、一応はとぼけてみせる。
藍崎くんは「くくっ」と喉の奥で笑った。そういう仕草のひとつひとつまでもが妙に決まっていて、つい目がいってしまうのが癇にさわる。




新キャラ、藍崎洋介(あいざき ようすけ)くんです。
彼がどういうポジションの人かはこれからおいおい・・・。
真矢さんはイケメンですが、藍崎くんは美形です。
ええ、趣味ですが、何か。

虹色マカロン 碧の章 (後編)

最終回です。ちょっと台詞がアレですが(ドレだよ!)
まあ、その、よろしければ・・・。
年齢制限は一応クリアかと。
わからない言葉は、いずれわかるようになります!


虹色マカロン 碧の章 (後編)



「難攻不落かと思っていたら橘がタイプだったとはね。意外、いや、逆に納得できるような・・・」
「あんまり鈍感で子供っぽいから、ちょっとからかっただけよ。ホテルに誘ったら気の毒なくらいうろたえてたわ、童貞かしら」
「ふうん・・・」

藍崎洋介は、唇の端をわずかに上げた。
この人は橘蒼祐とは正反対だ、何を考えているのかまったく読めない。

「アンビバレンツ・・・」
「え?」
「橘がのってこなくて残念だけど、逆に喜んで誘いに乗ってきたら幻滅しただろう?」

そうなんだろうか。
でも、そもそも、本気にされたら冗談だったと言ってかわすつもりだったし。

「ただの冗談よ。そこどいて」

そう言い捨てて、藍崎洋介の隣をすり抜けようとした。
と、

「おっと・・・」

いきなり腕を掴まれて、柱の陰に引き込まれた。

「ちょっと、何す・・・」
「しっ!」

彼が唇に人差し指をあてる。次の瞬間、橘くんがエスカレーターを上がって出口に向かうのが見えた。ここは反対方向で彼には死角になるところだ、橘くんは私たちに気付かずに店を出ていった。

「ここで鉢合わせしたら気まずいだろう」

まったく、抜け目がないというか、すべて見通しているというか。
綺麗な顔をしたただのプレイボーイかと思っていたけど、侮れない。

「そうね、ありがとうって言っておくわ」
「じゃあ、こちらもどういたしまして、と言っておこう」

本当に食えない男だ、言動がいちいち癪にさわる。

「ついでに、橘に告げ口はしないから・・・。口止め料がわりにキスのひとつも欲しいところだけど、まあ今回はひとつ貸しってことで」
「どういうこと?」

意味が分からず、相手の顔を見返す。藍崎洋介は意外そうな顔をしていた。

「もしかして、知らなかったとか?」
「わたしが何を知らなかったっていうの?」

聞き返すと彼はふっと笑った。

「ごめん・・・」
「なぜ謝るの?」
「君を誤解してたからさ」
「誤解って?」
「さっき、ちょうど君の目の前に奴の彼女がいたからさ。彼女の前で橘を掻っ攫って見せ付けるつもりかと」
「ええっ!」

知らなかった。あの時は橘くんしか見てなかったから、周りに誰がいるかなんて全然気付かなかった。でも、だとしたら、ずいぶんと酷いことをした。
謝るべき?だけど、橘くんもたぶん気付いてなかっただろう。

「本当に知らなかったみたいだな」
「当たり前でしょ、知ってたらあんなこと言わないわ」
「そうか、残念だな、君に貸しを作れたかと思ってたのに」
「お生憎さま。でも、あなたも人が悪いわね、黙って見てるなんて」
「あの状況で出て行って何をしろと?」
「それはそうだけど・・・」
「だけど、まあ俺としてはラッキーだった、今までこんなに長く君と話したことはなかったから」

思わず笑ってしまった。

「相変わらず、サービス精神旺盛ね。目の前の女はとりあえず口説いておくとか」
「俺ってそういう印象だったのか、傷つくな・・・」
「あら、今度は同情を引くつもり?」

はあー、と藍崎くんは大きなため息をついた。

「やっぱり難攻不落だ。橘が羨ましい」
「だから、それは誤解で・・・」
「ほんとにそう?」

気付くと、すぐ目の前に藍崎くんの顔があった。

「何が言いたいの?」
「橘がもしOKしてたら、そうなってもいいと思っていたとか」
「ノーコメントよ」
「でもまあ、奴は間違いなく童貞だろうから、とりあえずは避けておいたほうがいい」
「どうして?」
「いろいろと大変だろうからさ、お互い初めてだと」
「え?」
「橘のこと童貞じゃないかとか言ってたけど、君だって処女だろう・・・」
「なっ・・・」

頬が紅潮するのが自分でもわかった。

「あたり・・・」

彼がくすっと笑う。
どうかしてる、こんな単純なトラップにかかるなんて。

「あなたって最低!」

思わず声が尖る。
と、彼は、意外なことに嬉しそうに笑った。

「うん、初めて見た、君の人間らしい顔。失礼なこと言ってごめん。でも、そういう顔が見たかったんだ」
「わざと・・・」
「ごめん・・・」

彼は頭を下げた。
なんて人だろう、この人といると調子が狂う。いつもの自分でいられなくなる。

「ちなみに俺は童貞じゃないから」
「そう、わたしには無関係だけど。じゃあ・・・」

そう言って彼の傍を離れる。何でこんな長話をすることになってしまったのかわからない。

“橘がもしOKしてたら、そうなってもいいと思っていたとか”

そんなこと・・・。
私は頭を強く振って、小走りで店を出て駅に向かった。

今日のことは忘れてしまいたい。
何だか、怖かった。
でも、何が怖いのか・・・
どうしてもわからなかった。

END



あは、あはははは・・・
こんなの書いてよかったんだろうか。
藍崎くんは、また出る予定だったりしますが、見たくないという意見も出そうな気が^^;
ほんと蒼くんと性格真逆・・・。