星くず桜 Part1  エマージェンシー

七夕短編です。読みきりのつもりが、根性なくて無理でした、すみません。
蒼ミクその後、です。
ふたりは順調に交際中、かな?
このテンプレはこの話が終るまでの限定です、短編です、短編の予定です。




星くず桜 Part1 エマージェンシー


7月6日、火曜。
空はどんよりと曇っていて蒸し暑い。篭った熱が体に纏わりつくような不快な気候だ。早く梅雨明けないかな。
バイトの帰り、美紅と並んで駅へ向かいながら、ぼんやりとそんなことを考えていたら、傍らの美紅が話しかけてきた。

「今日は、星見えそうにないね」
「そうだね」

夕刻だが、空は一面雲に覆われていて、夕焼けは見えない。

「でも、明日は午後から晴れるって言ってたよ、天気予報で」
「そうか、じゃあ、夜には晴れて星も見えるかもしれないな」
「うん、それでね」

他愛のないお天気の話。
平和そのものの話題だ。
が、俺の平穏な日常は美紅の次の一言で脆くも崩れ去った。


「明日は七夕祭りをやるから、お母さんが蒼くんうちに連れてきなさいって」

そうか、明日は七夕だったな・・・って。
ん?そのあとの言葉は
“うちに連れてきなさい”

え・・・?

えええええええええ!!!!!


「え、うちって美紅の家に?」
「うん」

にこっと微笑む美紅はすごく可愛い・・・んだけど。
ど、どうしよう。
いきなり降ってわいたこの緊急事態に俺は軽いパニックに陥っていた。


親元を離れて一人暮らしをしている俺と違い、美紅は自宅から電車で通学している。
つまり、美紅の家に行くということは俺を家族に紹介するってことで。
お父さんとか出てきたらどうすればいいんだ。
しかも、いきなり明日って、こ、心の準備が。

「どうかした?」
「どうって、いや、家に行くとか緊張するな、と思って」
「別に結婚しますって言いにいくわけじゃないんだから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

けっ・・・。さらっとそういう爆弾発言をするのはやめてほしい。
やばい、ますます緊張してきた。

「明日、バイト休みだよね。それとも何か予定があった?」
「いや、ないけど」
「じゃあ、決まりね。あ、ちょうど着いた」

いつの間にか駅に到着していた。
にこにこしながら手を振る美紅に手を振り返しながら、俺は呆然としていた。
ほんとに・・・
どうすりゃいいんだ!!



俺が緊張する理由、それはもちろん、彼女の家族に紹介される、というのが一番だけど、理由はそれだけに留まらない。

何故なら
俺もついこの間まで知らなかったことだけど、美紅の家はでかい。

家の場所も高級住宅地で、俺には縁がない。
宝くじでも当らない限り、俺がここに家を建てるなんてことは夢のまた夢、つまりはそういうところだ。

まあ、でかい家とはいっても漫画に出てくるような、門から家まで車で30分とか、玄関開けたらメイドさんがずらっと並んでいるとか、そういうんじゃないけど。

でも、典型的小市民の俺がドアホンを鳴らすのには相当勇気がいる、その程度にはでかい。
先月、初めて美紅を家の前まで送っていって、自分の家とのあまりの違いに愕然とした。

こんな貧乏学生との付き合いはやめなさい、とか言われてるんじゃないだろうか。
その可能性はかなり高い。

はあ・・・。
でも、ここで断ったら失礼だし、行くしかないんだろうな。

大丈夫か、俺。
正直言って・・・
明日がくるのが怖い。





蒼くん、いきなりのエマージェンシー。
彼はこの苦境(?)を乗り越えることができるのか?
続き、頑張ります。


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星くず桜 Part2 浴衣美人

大阪は夕方まですごい雨だったけど、夜は晴れて、ちゃんとヴェガとアルタイルがみえました。
関東は、途中から雨になったらしいですけど、まあ、そのへんの追求はなしでお願いします。


星くず桜 Part2 浴衣美人


しかして
時計の針は無情に進み、あっと言う間にその日はやってきた。

ネクタイ締めなくていいのかとか、せめて襟つきのシャツくらい着ていったほうがいいんじゃないかとか、いろいろと気を揉む俺に、いつも通りでいいからと普段着のTシャツ姿のまま、俺は美紅の家に連れていかれた。
ここまで来たら覚悟を決めるしかない。
俺はひとつ深呼吸をすると、ドアホンのボタンをプッシュした。

“はい、どちらさまですか”

女性の澄んだきれいな声が響いた。とりあえず、お父さんじゃなかったことに俺は内心感謝する。

「橘です、本日はお招きにあずかりまして・・・」

みなまで言い終わらぬうちに、きゃあぁぁー!とスピーカー越しに黄色い声が響いた。
な、なんなんだ

と思っていたら、門扉が開いた。自動なんだ、すごいな。
そして、格調の高い樫の扉が開くと、中から浴衣姿の若い女性が出てきた。
門扉から玄関までは10メートル以上離れているけど、それでもかなりの、いや、すごい美人なのははっきりわかる。

「どうぞー!」

女性は手招きしている。どうやら気さくな人らしいのに安心した。

玄関に招き入れられる。
ここも広くて豪華だ、こんなすごい家に住んでいる美紅が、よく俺の住んでる安アパートに来てくれるよな。

「いらっしゃい。待ってたのよ、美紅の彦星さん。あ、わたし、美紅の姉の朱里(あかり)です」

美紅の彦星さんか、何か照れる。どうやら歓迎されているらしいのにひとまずほっとした。

それにしても、近くで見ると美紅の姉さんはつくづく美人だ。
白い牡丹をあしらった緋色の浴衣がとてもよく似合っていて、「あでやか」という言葉がぴったりだ。そこらのモデルよりもよほど美人だと思う。美紅の家って美人の家系なんだな。

先に立って歩きだした朱里さんのあとに続いて歩き出すと、隣の美紅にいきなり腕を引っ張られた。

「え、なに?」
「ダメだよ、蒼くん」
「なにが?」
「さっきおねえちゃんに見惚れてたでしょ。おねえちゃんには婚約者がいるんだから、好きになっちゃダメ!」

美紅は拗ねたような口調でそう言うと、俺を睨んだ。
か、可愛い。
確かに朱里さんは美人だけど、やっぱり俺にとっては美紅が世界で一番かわいい。

でも・・・。
俺はちょっと美紅をからかってみたくなった。

「へえ、じゃあ、婚約者がいなかったらお姉さん好きになってもいいわけ?」
「ダメ、絶対ダメ。てか、やだ。好きになんないで!」

美紅は涙目になっている、苛めすぎたかな。反省・・・。

「冗談だって。俺は美紅しか好きにならないから」

そっと美紅の耳元で囁くと、美紅は頬を染めて頷いた。

前を歩いていた朱里さんが足を止めた。
観音開きのドア、日本の一般家庭ではまず滅多にお目にかかれないほど立派なものだ。どうやらここがリビングらしい。

「どうぞ。あ、それから・・・」

朱里さんは俺のほうを見ていたずらっぽい口調で言った。

「仲がいいのはわかるけど、人をダシにいちゃつくのやめてくれる?」
「ど、どうもすみません・・・」
「いえいえ、ごちそうさま・・・」

朱里さんはくすくす笑っている。よかった、気を悪くしたわけじゃないらしい。
ふう・・・。
つい、ここがどこかということを忘れていた。
駄目だよな、俺。美紅の前だと他のことが目に入らなくなってしまう。
こんなことで、この状況を無事に乗り切れるんだろうか。
不安・・・。



アホですね、何をやってるんだか・・・。


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星くず桜 Part3 ラスボスの居城?

3回です。結構長い。
読みきりのつもりだったのに何故?
もう少々お付き合いください。



星くず桜 Part3 ラスボスの居城?


俺は、朱里さんの案内で部屋に招き入れられた。
ええと、挨拶のことばは・・・。
橘蒼祐です、美紅さんにはいつもお世話に、いや、仲良くさせていただいてます、のがいいか。本日はわざわざお招き・・・
と、挨拶の言葉を心の中で反芻していた俺だったのだが。

「いらっしゃーい!!あ、堅苦しい挨拶とかしなくていいから。聞くの面倒なだけだし」

女性の明るい声が、昨日1時間かけて考えた俺の挨拶の言葉を一瞬で吹き飛ばしてしまった。
声の主は、淡い水色に桔梗柄の浴衣を着たきれいな女の人だった。
若く見えるけど、美紅のお母さんかな。

「もー、お母さん。もう少し言い方ってもんがあるでしょ、面倒とか失礼な!」

美紅が怒ったような口調で言う。
お母さんはケラケラと笑った。なんていうか、明るい、いや、明るすぎて圧倒される。

「ごめーん、でも、もう名前も美紅から聞いて知ってるし、紋切り型の挨拶なんかなんの意味もないでしょ。それとも蒼祐くん、せっかく考えたんだったら挨拶してく?」
「いえ、今ので全部忘れてしまいました、すみません」

俺は正直に言った。お母さんがわが意を得たりとばかりににっこり笑う。

「うん、正直でよろしい。借り物の言葉なんて聞いても意味がない、って私は思ってる。もちろん、きちんとした挨拶が出来ることは大事なことよ。でも、今日は建前じゃなくて本音が知りたいの、普段の蒼祐くんがね。美紅とはうまくいってるみたいで安心したわ。あ、申し遅れました、美紅の母です、ってもうわかってるわよね」

面白いお母さんだ。
でも、とても居心地がいい。一緒にいてほっとする、そんな感じ。
その時俺は初めてお母さんの隣にやはり浴衣姿の男性がいるのに気づいた。
お、お父さん?
今のやり取りをどう思っただろうか。

恐る恐るそちらを見ると男性と目が合った。
ん?
若い。
いや、若く見えるとかそういったレベルの問題ではなく、誰が見ても若い。どう見ても20代なかばだ。
だ、誰?
戸惑っていると彼はにっこり微笑んだ。「爽やか」という表現がぴったりと当てはまる。着慣れているのか浴衣姿も決まっている。背もかなり高い。
俺の身長は177センチで、まあ、割と高い部類に入るけど、その俺より5センチくらいは高いだろう。
うーん、同じ男としてまことに悔しいが、かっこいい。

「はじめまして、紺野真矢(こんの しんや)です。朱里さんの婚約者です、どうぞよろしく」
「橘蒼祐です、どうぞよろしく」

この人が朱里さんの婚約者か。なるほどお似合いだ。どこへ出しても恥ずかしくない究極の美男美女。なんというか、いろいろと引け目を感じるよなあ・・・。

そうだ、それより
お父さんはどこだろう?
俺は、ラスボスの城に潜入した勇者のような気分でそっと辺りを見回した。
が・・・
お母さんと朱里さん、真矢さん、それに美紅以外の人物は見当たらない。
ひょっとして、留守?



美人出したのでイケメンも出してみましたww
真矢さんは朱里さんのフィアンセであると同時にOOのOです。
Oの中には漢字が入ります。
以前ちょっとしたヒントを出したことがあったのですが、わかった方は非公開にてコメントください。
当ったらすごいです。いえ、豪華賞品とか無理ですけど、詩とか、要りませんかそうですか、ははは・・・。


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星くず桜 Part4 コンプレックス

短いですが、話の区切り上、ここまで・・・

 Part4 コンプレックス


と、お母さんと目が合った。

「主人なら今日は仕事で来れないの、残念がっていたけどね。また日を改めてお招きするわ」

なんだ・・・。
ラスボス不在。
ほっとしたというか、ちょっと気が抜けた。

「ほっとした?」
「はい、あっ!」

まずい、つい本音が。
慌てて口を押さえた俺を見て、美女3人が笑い転げる。
真矢さんは笑ってないけど、内心笑いを堪えているのがわかる。

「しょ、正直ね、蒼祐くん。そんなに気を張るような相手でもないんだけど、まあ無理もないか。突然帰ってきたりしないから今夜は安心してくつろいでいって・・」

笑いすぎたのか、目に溜まった涙を拭いながらお母さんが言う。

ああ、ほんとにもう。
ここに来てから、墓穴掘りっぱなしだ。

「ご主人、忙しいお仕事なんですね」
「ええ、まあね。最近なり手が少ないってのもわかるわ、激務だもの。ねえ、真矢さん」
「はい。僕も徹夜明けですし。2時間くらい仮眠とりましたけど」
「あらまあ、そうだったの。ごめんなさいね、もっとゆっくりしていたかったでしょうに、無理にお誘いして」
「いいえ、朱里さんも忙しいし、会うチャンスは逃したくないですから。明日は7時に入ればいいんで、比較的ゆっくりですし」
「ほんとに医者くらい体に悪い仕事も少ないわよね、私の仕事も精神的に体に悪いかもしれないけど」
「そうかもしれませんね、でも、医師にしろ弁護士にしろ、やりがいのある仕事なのは間違いないです。でないとやってられませんけど」

お母さんと真矢さんの会話からわかったこと、美紅のお父さんは医者で、お母さんは弁護士。そして真矢さんも医者。

なんだか・・・
自分がひどくちっぽけな存在のような気がしてきた。
来ないほうがよかったかな
ほんの少し、後悔した。

ふと、思う。
こんな華やかな世界に生きている美紅。
美紅は、俺のどこがいいんだろう。




ちょっとせつないですね・・・。
蒼くんは自信を取り戻せるのでしょうか。


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星くず桜 Part5 第一関門突破?


短くても出来るだけ毎日続けることを心がけてみる。
いつまで続くかはわからないけど。


星くず桜 Part5 第一関門突破?

「やだ、私ったら、お客さまに仕事の愚痴なんか聞かせちゃって。早く支度しないとね。朱里、美紅のやってあげて」
「はーい、美紅、おいで」

美紅は朱里さんと一緒に部屋を出ていってしまった。支度ってなんだろう。

「蒼祐くんは私がやってあげるわ、いらっしゃい」
「あの、何をするんですか」
「七夕なんだから浴衣に着替えるのよ。ちゃんと蒼祐くんのぶんも用意してあるの、きっと藍の浴衣が似合うと思って、先週美紅とデパートで選んできたのよ」

何だか嬉しそうにお母さんが言う。

「いいわねえ、娘もいいけど、私、息子が欲しかったの。イケメンの息子が二人も出来て嬉しいわ、うふふ・・」

俺がイケメンかどうかは別として、息子って、これは美紅の彼氏としてお母さんに認められたって思っていいのかな。
第一関門突破、だったらうれしいけど。
でも、やってあげるって着付け?

「あ、あの、お母さんが着せてくださるんですか?」

俺は恐る恐る訊いた。

「ええ、そうよ。それとも一人で着られる?だったらいいけど」
「いえ、着れません。けど・・・」
「けど?」

お母さんは不思議そうな顔をして俺を見た。

「あの、つまり、ええと・・・」

彼女の母親とはいえ、女の人の前で着替えるのは抵抗がある。てか恥ずかしい。でも、なんて言ったら・・・。
そう思っていたら、思わぬところから助け舟がきた。

「僕がやるよ。お母さん、隣の部屋、お借りしていいですか」

真矢さんだ。

「そりゃいいけど、どうして。私じゃいやなの?」

不満そうなお母さんに、真矢さんは苦笑した。

「恥ずかしいんですよ、僕も男だからわかります。お母さん、きれいだし」

そう、その通り。俺はこの場に真矢さんがいてくれたことに感謝した。

「口がうまいわね、真矢さん。そんなこと言われたら引き下がるしかないじゃない。せっかく楽しみにしてたのに」

お母さんはぷっと膨れた。
こういうところ、美紅に似てるな。やっぱり親子なんだ。
さっきまで胸を覆っていた、ネガティヴな気持ちが消えて少し気分が上向いた。

やっぱり美紅の境遇は俺には眩しすぎるけど、門前払いを食わされているわけじゃない。
落ち込んでいる場合じゃないな。背伸びしても仕方がない、俺は俺でしかないんだから。

俺は美紅が好きだ。
誰よりも美紅を大切にしたいと思っている。
俺にはそれしかないけど、

でも・・・
この気持ちだけは、絶対に誰にも負けない。




ちょっと浮上、がんばれ蒼くん!
君が持っているのは美紅ちゃんへの愛だけだ!
タカユキくんと同じ・・・
いかん、自分で突っ込んでしまった



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星くず桜 Part6 ゲストルームにて

星くず桜 Part6 ゲストルームにて



なんとかお母さんから逃れた俺は真矢さんと隣の部屋に入った。
6畳くらいの洋室で、ベッドとサイドテーブル、簡単なつくりの机があるけれど、あまり生活感がない、ホテルの部屋みたいだ。

「ゲストルームだ。何なら泊まっていってもいいって言ってたけど、どうする?」

真矢さんはそう言ってくすっと笑った。

「いえ、遠慮します」

この緊張感が明日まで続くのは耐えられない。狭かろうが殺風景だろうが、自分の部屋がいい。
それにしても、ゲストルーム。
やっぱり一般家庭とは違うよなあ・・。

「お母さんはちょっと変わってるけど、君のことはすごく気に入ってるよ。自信持ったほうがいい」
「はあ・・・」

見抜かれてた、鋭いな。

「じゃあ、脱いで」
「はい、えっ?」

思わずうろたえてしまう。

「脱がなきゃ着替えられないだろう、大丈夫、そっちの趣味はないから襲ったりしないって」

う・・・、なんてこと言い出すんだ。真面目な人だと思っていたのに。
そう思いながら、俺は着ていたTシャツを脱いだ。

「へえ・・・、君、アスリートだね」
「わかるんですか?」
「一応医者だから。筋肉の付き方が一般人とは違う」

浴衣を着せ掛けながら、真矢さんは言った。

「4歳からずっとサッカーやってました。でも、もう引退して2年経つんですけど」
「そうか、そのわりに筋肉落ちてないね」
「腹筋とか腕立てとか、毎日やってたからやめると気持ち悪くて、そのせいかな」
「そうだね、そのほうがいい。突然やめてしまうと体調を崩すこともあるから。帯締めるから後ろ向いて」
「あ、はい」

真矢さんは、俺と会話を交わしながら手際よく着付けを済まし、帯を締めた。

「はい、出来たよ」
「ありがとうございます。すごい、慣れてるんですね」

浴衣なんか着たの生まれて初めてだけど、結構気持ちいい。
体の中を風が通りぬけていく感じ。肌にまとわりつくTシャツよりもずっと涼しい。

「実家が料亭だから、子供のころから着付けを仕込まれた。主人はお得意様に和服で挨拶するのが慣習だから。ま、家業を継がずに医者になるって言ったら勘当されたけど」

ははは・・・と明るく真矢さんは笑った。
それにしても、今の時代に勘当って。いろんな人生があるもんだなあ。


真矢さんのターン。
イケメンだからひいきしたわけじゃないです。
この人は今後微妙に先のストーリーに絡んでくる予定です。
全然ラブラブにならなくてすみません。美紅ちゃんどこいったのー?!



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星くず桜 Part7 ねがいごと

読みきりとか到底無理でしたw
今回、ちょっと長めです。



星くず桜 Part7 ねがいごと




浴衣に着替えて広いリビングに戻るとお母さんがにこにこしながら話しかけてきた。

「やっぱりよく似合うわ、ねえ美紅」

お母さんの後ろから美紅が顔を出した。

「うん、蒼くん、すごくかっこいい」
「彼は体格も姿勢もいいからね」

美紅と真矢さんがそんな会話を交わしていたけど、俺は一瞬で美紅に釘付けになった。
白地に、ピンクに近い赤紫の朝顔が描かれた浴衣、帯は臙脂と辛子の2色で、全体を引き締めている。
それを身に着けた美紅は清楚で可憐で、とても可愛らしい。
いつも肩のあたりでふわふわ揺れている栗色の髪は、高い位置でまとめられていて、薄紅色のコサージュで飾られている。
可愛い、けど色っぽい感じもあってドキドキする。

どこからかピアノの旋律が聞こえてきた。
何?脳内のBGM?
と思ったら、朱里さんがピアノを弾いていた。
げ、今まで気付かなかったけど、グランドピアノだ。
グランドピアノが置けるリビングとか、俺にとっては想像の外だけど、こういう環境のところもあるんだなあ・・・。

「うふふふ・・・お二人さん、見つめ合っちゃって。思わず即興でBGMつけちゃったじゃない。いいわねえ、若いって」
「もう、おねえちゃん!からかわないで。それに、年なんて、あたしと3つしか違わないくせに」

ムキになってる美紅も可愛いなあ。

「でも真面目な話、これ結構気に入ったから、しっかり作りこんで次のCDに入れようかな。タイトルは“七夕”“織姫と彦星”それとも“天の川”なんてどう?」
「知らないよ、好きにすればいいでしょ」

美紅と朱里さんのやり取りはほほえましいけど、CDって?

「あ、あのね蒼くん、おねえちゃんはピアニストなの」
「まだ、やっと1枚目のCDが出たところだけどね」

お、お姉さんピアニストー?!
どんだけ華麗なる一族なんだ、この家族は?!
いや、気にしない、気にしない。
俺は呪文を唱えるように自らに言い聞かせるしかなかった。
でも、もう・・・
何を言われても、何が出てきても驚かない気がする。


「さあ、みんな着替えたところで、外に出ましょう。昨日の雨が上がって星がきれいよ」

お母さんに促されて、ガラスの引き戸を開けて、屋外に出る。そこは広々としたウッドデッキになっていて、広いテーブルの上には様々な料理がならんでいる。
そして、
そこには、色とりどりの短冊に彩られた見事な笹が風に揺れていた。
声もなくその光景に見惚れていると、

「はい、彦星さん」

朱里さんに水色の短冊とペンを渡された。
七夕の短冊に願いを託すなんて、いつ以来だろう、たぶん十数年ぶりだ。
幼稚園以来、かもしれない。
「新作のゲームがほしい」とか「サッカー選手になってワールドカップに出たい」とか
好き勝手なことばかり書いていたっけ。
でも、今俺が願いたいこと、それはたったひとつ。

これからも、美紅と一緒にいたい。

俺は渡された短冊に願いごとを書こうとした。
だけど、
あれ?書けない。あ、いや・・・
インク切れじゃない。水のように透明なインクで、書いても紙に写らないんだ。

「それはね、魔法のインク。あとでもう1本のペンで塗りつぶすと文字が浮き出てくるの。でもね、今日はそれをやらない。願いごとを知っているのは、あなた自身とお星さまだけ。どう、なかなかロマンチックでしょ」
「はい・・・」

まあ、確かに、幼稚園児ならともかくこの年になって願いごとの中身を人に知られるのは少し恥ずかしい。
「魔法のインク」で願いごとを書いた短冊を、こよりで笹に吊るす。
気配を感じて隣を見ると、美紅が桃色の短冊を笹の葉に結んでいた。
目が合って、お互い自然に微笑む。
何も書かれていないように見える、2枚の短冊。
だけど、そこには、星だけに見える願いごとが書かれている。
美紅の願い、それは俺には知りようのないことだけど。
美紅も同じ思いだったらいいな
・・・そうあってほしい。




よかったー。美紅ちゃんいた。
蒼くん、美紅ちゃんガン見してますねww




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星くず桜 Part8 Jack in the box

サブタイトルは「びっくり箱」という意味です。
なににびっくりするんでしょうね。


星くず桜 Part8 Jack in the box


「そろそろ食事にしましょ、蒼祐くんもおなかすいたでしょ」
「はい・・・」

お母さんに促されて、俺達はテーブルに向かった。
銀色の、これ、なんていう名前なんだろう。バイキング方式のレストランでよく見かける、足つきの容器に、様々な料理が並んでいる。
生ハムメロン、シュリンプカクテル、スモークサーモンなどの冷製のオードブルから保温容器に入ったスープ、温かい肉料理に魚料理、それに色とりどりのフルーツまで。
フルコースメニューだな、すごくうまそう、そして思い切り高級そうだ。

「すごい、これ、お母さんが作られたんですか?」

思わず関心して尋ねると、お母さんはかぶりを振った。

「ううん、ホテルのケータリングサービス。お皿も洗わなくても引き取ってくれるから便利なの。私、料理はしないし」

そうなんだ・・・。でも、「料理しない」って言い切る母親というのも珍しいよなあ。

「しない、じゃなくて、出来ない、の間違いでしょ。わたし、ずっと手料理はお父さんが作るものだって思い込んでいて、幼稚園のとき恥をかいたの忘れられないわ」

お、お父さんの手料理・・・。どこまで意外性に富んでいるんだ、この家族は。もう何聞いても驚かないつもりだったのに、十分驚いた。

「ふんだ、人間はジェンダーなんかにとらわれるべきではない、と幼い頃から教えてあげてるのよ。感謝しなさい、朱里」

自信満々で言い放ったお母さんに朱里さんは肩をすくめてみせた。
潔いほどの開き直り。びっくり箱みたいな家族だな、全く。

「とにかく乾杯しましょ、ビールでいい?」
「はい」

そう答えると、お母さんの後ろからビールの瓶と冷えたグラスを持った美紅が現れた。

「はい、どうぞ」

美紅のほっそりとした白い手に握られた琥珀色の瓶から、ピルスナーグラスに白い泡に包まれた黄金色の液体が注がれる。
お返しに美紅にオレンジジュースを注ぐと美紅はにこっと笑って

「ありがとう」

と言った。
ほんと癒される笑顔だなあ・・・。なんというか、その、ものすごく幸せ。


全員にそれぞれ飲み物がいきわったところで、グラスを掲げて乾杯した。
冷たい刺激が喉を通り抜けていく感覚が心地よい。
ちょっとだけ緊張感がほぐれてきた。

「あら、真矢さん。今日は飲んでいいの?」
「ええ・・・」

隣でお母さんと真矢さんが会話している。

「まあ、うれしい。どんどん飲んでね。ビールのほかにもワインとかウィスキーとかいろいろ用意してあるから」
「いえ、ビールだけ、このグラスに3杯までです。それ以上だと明日の朝6時までに代謝できませんから。他のアルコールを混ぜると計算が面倒ですし」
「そんなこと考えながら飲んだっておいしくないでしょうに。それにお酒は心ゆくまで飲んでこそ楽しいものでしょう」
「別に味は変わりませんよ。それに酒が残ったまま患者を診るわけにはいきません」

はあ、確かに。お医者さんってのも大変なんだなあ・・・。

「あなたと話してると主人を思い出すわ。本当に医者なんてつまらないわね」

お母さんは真矢さんを睨んだけど、真矢さんのほうは慣れているのか平気な顔だ。
と・・・。

「そのつまらない男のところに婚姻届持って押しかけて来て、“私と結婚しないなんて人生最大の損失よ”って強迫したのはどなたでしたっけ?」

突然後ろから男性の声がした。落ち着いた感じのバリトンだ。
え、誰?
まさか・・・。

「あら、そんなこともあったかしら。覚えてないわ」

お母さんの視線は俺の真後ろだ。
これはもう間違いなく・・・

振り向くのが怖い。



ここでいよいよXXXX登場!となるんでしょうか?
詳細は次回で。
ところで、蒼くんは5月生まれなので、この時点では20歳。
めでたくアルコール解禁となっております。美紅ちゃんは9月生まれなので、まだ未成年。
法律は守りましょうw



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星くず桜 Part9 大切な人

あれ、何で終らないの?
と、ついこの間も↑書いた気が・・・。
今週末は家にいないので、更新できないです。
明日まではなんとか毎日更新したいけど。



星くず桜 Part9 大切な人

俺の背後の人物とお母さんの会話は続く。

「相変わらず、自分に都合の悪いことは忘れる主義なんですね、茜さん」
「ええ、そのほうが精神衛生上いいでしょう。医者なんだから、家族が健康でいられるのは何よりうれしいことよね、違う?」
「違いませんね、私が一生あなたに勝てないのと同じくらい歴然たる事実です」
「わかっていればいいのよ。それより、あなた今日は帰れないんじゃなかったの?」
「ええ。資料が必要になったので取りに戻っただけです。我が家の恒例行事に参加できないのは残念ですが」
「ほんとにそうね、今回は新しいゲストもいるっていうのに。蒼祐くん」
「は、はい!」

来た!
落ち着け、きちんと挨拶して。駄目だ、もうすっかり安心してろくに憶えていない。
ああ、もうこうなったら出たとこ勝負だ。
俺は観念して振り返った。
仕立てのよさそうなスーツを着た、上品な紳士が優しく微笑んでいる。
ノーブルな顔立ち、ひょっとしてヨーロッパ系の血を引いているのかな。

「橘蒼祐くん、でしたね。美紅の父です。美紅をよろしく」
「はい!」
「じゃ、私は仕事があるんでこれで。ごゆっくり」
「はい、ありがとうございます」

お父さんはそれだけ言うと会釈して出ていってしまった。

え、これだけ?
いよいよラスボスとの対決だと思っていたのに。
美紅をよろしく、って言ってくれたってことは、一応OKが出たってことなのかな。
俺と話すのがいやで出ていった、なんてことはないよな。

「大丈夫よ、彦星さん」

話しかけてきたのは朱里さんだ。

「うちではね、母がOKしたことに父は絶対に逆らえないの。だから母があなたのことを認めた時点で、父もあなたのことを認めたってことよ」

うん、それは今のやり取りでなんとなく理解できた。
でも、お父さん自身は俺をどう思ってるんだろう。

「それに、あれで父は美紅を溺愛してるから、あなたが気に入らなかったら厭味のひとつも言うはずよ。あっさり引き下がったってことは、相当あなたのことを気に入ったわね」

そうなんだろうか。そうだったらうれしいけど。

「じゃあ、ごはん食べましょ。もう、おなかペコペコ」

朱里さんのあとに続こうとして、俺は傍らの美紅の視線を感じて振り返った。

「すてきな人でしょ、おねえちゃん・・・」
「ああ、そうだね」

でも、美紅の表情は冴えない。
美紅の屈託。もしかして、いや、多分。
美紅の心を占めているのは、さっきから俺が感じている感情だ。
コンプレックス、劣等感。

美しくて優しくて、才能に溢れた姉。
美紅は可愛い。俺にとってはもちろんだけど、客観的に見ても十分に可愛いと誰もが認める容姿だと思う。
だけど、完璧すぎる姉の前では霞んでしまう、きっと何度もそんな思いをしてきたんだろう。
朱里さんはどこも悪くない、ただ、傍にいると辛くなる。
一番近くにいて、大好きなのに・・・。
美紅の思い、それが俺にはわかる。
わかりすぎるくらいだ。

ふと、俺の後ろから走ってきて、あっと言う間に俺を抜きさっていく少年の姿がフラッシュバックした。まだ、昇華しきれていない、生々しい記憶。

俺は頭を振った。
今は俺のことなんかどうでもいい。

「美紅・・・」

何か言わないと、でも、何を言えば気持ちが伝わるのかわからない。
だから、
言葉の代わりに俺は美紅の手を強く握った。

朱里さんがどんなに素敵な人であろうと、俺にとって大切なのは美紅だから。
俺が愛しているのは美紅だけだから。
それがどれだけの足しになるのかはわからないけど。
でも、少しでもいい、美紅の気持ちが明るくなれば。そう、強く思った。

「あは、おねえちゃんの言う通り、おなかすいたね。行こ、蒼くん」

美紅は笑顔に戻っていた。

もし、本当に星に祈れば願いが叶うなら、もうひとつだけ叶えてほしい。

美紅が、いつも笑顔でいられますように。
そして、願わくば、俺にその手伝いが出来ますように。




あははは・・・ラスボス登場、と思わせて、実はボスとの対決はもうとっくに済んでいたのでしたw
バトルを期待してた方、すみません。
まあ、恋愛メインの小説なんで。
しかし、長いですね。
すぐ終ると思っていた自分の甘さを猛省。
やっとテーマっぽいものが。
コンプレックスからの脱却。美紅ちゃんにもあったんですね。
そして、蒼くんを追い抜いた人物は、いつか出てきます(いつだよ!)
ところで、奥さんのことを名前で呼ぶ男性は好きです。日本にはほとんどいない。


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星くず桜 Part10 すてきな人・好きな人

テンプレート戻しました。
連載再開です。

星くず桜 Part10 すてきな人・好きな人



俺にとって最も緊張するイベント「美紅のお父さんとの顔合わせ」を終えてほっとした俺は、やっと会話を楽しむ余裕が出来た。

話してみると、お母さんと真矢さんはとても面白い人だった。
とにかく話題が豊富で飽きさせないし、こちらの話を引き出すのも上手い。
俺は普段あまり喋る方ではないのだけど、気付けば家のことや学校のこと、美紅とどうやって知り合ったのかなど、ずいぶんいろんなことを話していた。
それでも身上調査めいた感じにならずに楽しく話せるのが不思議だ。
思わず真矢さんにそう言うと「職業柄かな」という答えが返ってきた。

「医者は患者からどれだけ情報を引き出せるかが勝負だから。弁護士もそうだと思うよ」

真矢さんの答えに、お母さんも頷いた。

「そうね、依頼主が私を信用して、正直に喋ってくれないと裁判は戦えないものよ」

そうだったのか。すごい、でも何か怖い。

俺なにかまずいこと、話してないかな。

「蒼祐くんって、本当に正直ね、考えてることまるわかり」
「えっ?」
「大丈夫よ。とても節度がある話し方だと思うわ。それに私たちには守秘義務があるから、何を言っても他所に情報を漏らしたりはしないから安心して。ね、真矢さん」
「当然ですね」

お母さんと真矢さんは顔を見合わせて頷く。
この二人のタッグは最強だ。絶対に勝てそうにない。
ちょっとお父さんの気持ちがわかった気がした。


「お母さんも真矢さんも、あまり美紅の大事な彦星さんを苛めないの。ごめんなさいね、二人とも悪気があるわけじゃないのよ」
「あ、いえ・・・」

絶妙のタイミングでフォローしてくれたのは朱里さんだ。

確かに本当にすてきな人だと思う。美紅のコンプレックスの原因はこの辺りにあるのかもしれない。

「そうだわ、ねえ、美紅。食事も大体済んだところだし、彦星さんを部屋に案内してあげたら?美紅の部屋のバルコニーはかなり広くて星がよく見えるの」
「うん。蒼くん、行こ!」

美紅はちょっと元気になって、にこっと笑った。
きっと気を利かせてくれたんだろうな。朱里さんは気配りも完璧だ。

でも。
すてきな人、イコール、好きな人ってわけじゃないんだけどな。
俺の傍らで小さくため息をついた美紅を見て俺は思った。



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星くず桜 Part12  葛桜

ここへきてやっとタイトルに繋がりました。



星くず桜 Part12  葛桜


「え?」

驚いて美紅の方を見る。
美紅はまだ空を見上げたままだった。その白い横顔は儚げで、とても美しい。
だけど、それだけに、何か手が届かない遠い存在のような気がした。
そう、上空に輝く、あの星のように。

「そんなこと考えたくない!」

俺は美紅の体を引き寄せて思い切り抱きしめた。
美紅はここにいる、そのことを確かめたくて。
美紅と会えなくなるなんて、そんな日が来るなんて思いたくない。

ここに来る前から感じていた漠然とした不安。
恵まれた境遇に育った美紅、彼女は本当に俺でいいと思っているんだろうか。今は好きでも、そのうちもっと美紅にふさわしい相手が現れて、いつか俺のもとを離れていってしまうんじゃないだろうか。
それは、最も考えたくないことだった。

「うん。そうだよね、ごめん」

美紅の両腕が俺の背に回され、俺は改めて美紅をしっかりと抱きしめる。
決して離さない、どこへも行かせない。

天空には織姫と彦星が輝く。
この一夜(ひとよ)だけを励みに、一年(ひととせ)の長い時間を耐える。彼らは辛くないのだろうか。
凍るように冷たい夜空で、ひたすらに待ち続けるだけの日々。
俺ならきっと耐えられない。
例えどんな罰を受けようとも、対岸には返さない。
このままずっと、美紅をこの腕の中に閉じ込めておければいいのに・・・。

だけど、それは到底叶わないことだ。
それを証明するかのように、部屋のドアがノックされる。

「はい、どうぞ!」

美紅はそう答えて、俺から離れた。
腕からすり抜けてゆくぬくもり、少し、胸が痛んだ。


「ごめんね、お邪魔だった?」

現れたのはお茶を載せたトレイを手にした朱里さんだった。

「もう、おねえちゃんったら、からかわないでって言ってるでしょ!」

そう言いながら、美紅はちょっと嬉しそうだった。本当はすごくお姉さんが好きなんだろうな。
朱里さんも美紅が可愛くてならないようで、優しく笑いながら、コーヒーテーブルの上に冷えた緑茶と和菓子を置いた。

「花月堂の葛桜、七夕限定品。これを食べるのがうちでの七夕祭りの恒例なの。美紅の大好物なのよね、じゃあ、ごゆっくり・・・」

朱里さんは会釈して出ていき、俺と美紅はバルコニーから部屋に戻り、並んでソファに腰掛けた。

「へえ・・・きれいなお菓子だな」

テーブルに用意された和菓子は葛桜。
桜の葉の上に、涼しげな葛饅頭が載っている。水羊羹と並んで夏を代表する和菓子で、母親の好物だったから、以前は夏がくるたびに食べていた。
でも、これは普通の葛桜とは違って、透き通った葛の中に、左上にピンクの、右下に水色の星が閉じ込められていて、その間に金箔の天の川が流れている。織姫と彦星をイメージしているのだろう、とても凝ったつくりで、思わず感心してしげしげと眺めてしまった。



この話を思いついたのは葛桜が食べたかったからだったり。でも近所に和菓子屋さんがないんですよね。
それで思わず小説捏造(笑)
でも、結構シリアスですね。最初はただ浴衣デートで葛桜食べさせたかっただけだったのに。
書きながらテーマを見つけるのが水聖スタイル(単にいいかげんなだけ)



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星くず桜 Pary13 真実の願い

この話もそろそろラストスパートです。
ENDマークまでもう少し・・・



星くず桜 Pary13 真実の願い


「でしょう、毎年これを食べるのがあたしの楽しみなの。味もすごくおいしいし、でもね」
「でも?」
「去年まで、おねえちゃんと真矢さんが仲良さそうに食べてるのが羨ましかった。お母さんにはお父さんがいるし、あたしだけひとり・・・」
「彼氏とか、いなかったの?」

聞いていいことなのかわからないけど、少しばかり気になることも事実だ。

「あたしモテなかったもん。あたしに近づいてくる人って、みんなおねえちゃん目当てだったし」
「まさか・・・」

こんなに可愛いのに、美紅自身に関心を持つ男がいないなんて、とても信じられない。

「本当だってば。高校のときなんか・・・ああ、もう、そーゆー不愉快なことは思い出したくない!」
「まあ、俺も他の男のことなんか聞きたくないな」

うん、これが本音。今美紅の隣にいるのは俺なんだし。

「そうだね、今年は蒼くんが一緒だから、すごくうれしい。早く食べよ!」

美紅が嬉しそうに言う。来てよかったな、今日初めてそう思った。
葛桜を黒文字で切り、口に運ぶとひんやりとした食感とともに上品な甘さが広がった。
うちで食べていたものよりはるかに高級だけど、葛の滑らかな口当たりが子供の頃のことを思い出させる、懐かしい味だ。


「今日はごめんね、無理矢理家に連れてきたりして。緊張したでしょ」
「うん、正直言って昨日はあまり眠れなかった。でも、今は美紅の家族に会えてよかったと思ってる」
「あたしね、本当はちょっと怖かった。おねえちゃんを見たら蒼くんがあたしよりおねえちゃんがよかった、って思うんじゃないかって」
「美紅・・・」

(婚約者がいなかったら、お姉さん好きになってもいいわけ?)

さっき、何も知らなかったとはいえ、ずいぶんひどいことを言ってしまった。
今さら謝ったところで、美紅の気持ちが治まるとは思えない。
いや、かえって惨めな気分にさせるだけかもしれない、コンプレックスとはそういうものだ。

「美紅、さっきの話だけど」
「さっきって?」
「もし、織姫と彦星みたいに年に一度しか会えなくなったら、って話」
「うん」
「そんなこと考えるのもいやだけど、もし、そうなったとしても、俺はずっと美紅が好きだから。たとえ何年経っても他の人を好きになるなんてことはないから。今までも、これからも、俺が愛するのは美紅だけだ」

そう、朱里さんに恋人がいようといまいと、そんなことは俺には無関係だ。
どんなに美人でも、才能があっても、朱里さんは美紅の姉、それだけだ。
美紅は俺にとって唯一の大切な人、愛する人。
誰にも美紅の代わりは出来ない、出来やしない。

俺は美紅を見つめた、見つめ続けた。
この思いが美紅に伝わるように。
美紅の辛い気持ちが少しでもなくなるように。

もう、自分のことはどうでもいい。

美紅が幸せな気持ちでいてほしい。
美紅に笑っていてほしい。

願いごとは、それだけだ。
他のことは

なにも望まない・・・。

今、俺が欲しいのは
愛する人の笑顔だけ・・・。




何気ないひとことが、その人にとっては致命的だったりすることもありますね。
でも、真実、相手を思いやる心があれば、きっとその思いは届くと信じています。


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星くず桜 最終話  I Belive・・・

最終話です。
やっと、結論が出ます。

星くず桜 最終話  I Belive・・・



美紅の琥珀色の瞳が俺を見つめ返す。
初めて会ったときから、この瞳に魅せられていた。
それは、今でも変わらない。
この瞳に見つめられたい、ずっとそう願ってきた。
その願いは叶った、それだけで十分だ。

「蒼くん」

美紅の手が伸びてきて、俺の髪に触れた。その手はそのまま頬へと移動する。

「どうも、ありがとう・・・」

そう囁いた美紅の顔がすっと近づいてきた。
そして
唇に感じる柔らかな感触。

瞳を閉じて、美紅を抱きしめる。

初めて、美紅のほうからしてくれたキスは
とても、甘かった。




柚木家を辞したのは、それから1時間ほどあとだった。
引き止められたが、明日も講義があるし、昨夜あまり眠っていないから、自分の部屋でゆっくり休みたかった。

「今日はどうもありがとうございました」

柚木家の人々に見送られ、駅へと歩き出した、その時、
下駄の音が俺を追いかけてきた。
振り向くと、美紅が慣れない下駄に足を取られそうになりながらもこちらへ駆けてくるのが見えた。

「美紅?」

もう少しのところで転びそうになった美紅の体を慌てて受け止める。

「どうしたの、そんなに慌てて」
「あ、あのね、蒼くん・・・」

美紅は息を切らしながら言った。

「あたしも、同じだから。たとえ、何年会えなくても蒼くんが好き。蒼くんしか好きにならない、それ、言いたくて」
「み・・く・・・」

美紅の家のほうが金持ちだとか、俺は美紅にふさわしいのか、とか。
さっきまで悩んでいた、諸々のことが、嘘のように消えていくのを感じた。

美紅が俺を好きでいてくれいる、愛してくれている。
そのことを、俺が信じなくてどうするっていうんだ。

大事なのはお互いの気持ち。そのことは十分にわかっていたはずなのに。
つい、周りのことにとらわれて、一番大切なことを忘れかけていた。

俺は美紅を愛している。
美紅も俺を愛している。

この気持ちさえ揺るがなければ、何があっても乗り越えていける。
俺は、そう信じる。

美紅の柔らかな唇に自分の唇を重ねながら、俺は強くそう思った。


美紅が無事に家に戻るのを見届けてから、俺は再び駅へと歩き出した。
降るような星空に、ひときわ明るく輝くふたつの星を眺めながら・・・。



☆ ☆  


思えば、この時の俺は自分のことで精一杯だった。
だから、
あのとき、どうして美紅があんなことを言い出したのか、深く考える余裕なんてなかったんだ。



ねえ、蒼くん
もし、一年にいちどしか会えなくなっても
それでも
あたしのことを好きでいてくれる?



                                  END



終りました!よかった7月中に間に合いました!
あとがきはまた明日にでも・・・
応援ありがとうございました^^




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星くず桜 あとがき


「星くず桜」読んでくださってありがとうございます。

前作、「虹色マカロン」で、思いがけなくたくさんの方々に愛していただけたので、蒼祐と美紅のカップルをまた出してしまいました。

7月のはじめ、ここ数年恒例ともいえる梅雨末期の豪雨に見舞われ、気分も落ち込みがちだったとき、久しぶりに星空を眺めて「星ってきれいだな、うん、七夕には星の話を書きたい。織姫と彦星みたいな、きれいだけどちょっとせつない感じで」と思ったのが、この話を始めたきっかけです。

せっかく七夕なんで、ふたりには浴衣着せたい、だったら和菓子だ!と、(安直に)タイトルが決定。
しかし、浴衣着て菓子食ってるだけじゃ、コネタにしかならないんで、何か芯になるもの決めないと。
で、蒼くんがバイトで生活費稼いでいる苦学生(ってほどでもないけど)で、そのせいでデートもままならなかった、という設定はすでにあったので、じゃあ、美紅ちゃんの家は裕福なほうが話としては面白い。
そこに蒼くんがコンプレックス感じて自信を失いかける、よし、出来た!(おい!)
ええ、そんなに甘くなかったです。ま、菓子と恋愛の話なんで甘いのは間違いないですが。
またしても「いつ終るんですか?」という状況に。7月はじめの豪雨なみの恒例になりつつあるかも。
柚木家の面々と真矢さんがでしゃばり、なかなか恋愛モードにならないという罠。
でも、彼らを書くのは楽しかったです。
美紅ちゃん以外、全員変!という困った家族でした。

まあ、それはさておき。
コンプレックス、ですが。
何に劣等感を感じるかというと、個人差はもちろんあるにせよ、やはり男性は社会的地位と経済力、女性は容姿であることが多いと思います。
で、二人には最もよくある、それゆえ難物でもあるこの問題に取り組んでもらいました。
最終的に、蒼くんが金持ちになるわけでも、美紅ちゃんがお姉さん以上の美女になるわけでもありません。
そんなことで問題は解消しないからです。
もっとお金持ちの人もいる、もっと綺麗な人も世の中にはたくさんいます。
誰かと自分を比べている限り、決して幸福にはなれません。
自分で自分の価値を見出して自信を取り戻せればいいんですが、それは難しいですよね。
やはり、周りから認められないと、自信って持てない。
そして、いちばん勇気が出るのは好きな人から自分がいかに必要とされているか実感できたときじゃないかな、と思います。
そんなことどうでもいい!と思った瞬間にコンプレックスの呪縛から解き放たれるのですね。

蒼祐と美紅は、今後もたびたび登場する予定です。
そして、きっとまた二人にはいろんな難題がふりかかってくることでしょう。
でも、そのたびに、悩んだり、落ち込んだりしながらも、少しずつ成長していってくれることと思います。
どうか、これからも、二人を見守ってください。

改めまして
読んでくださってありがとうございます。
そして、これからもよろしくお願いします。