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We Are Together いつもふたりで 前編 (小説)

以前書いた「I'm Here」「待っているわ」という詩の後日談を小説にしました。
今日は前編です。後編は明日アップします。



We Are Together いつもふたりで


食器を片付けて時計を見る。AM1:30、最近いつもこんな感じだ。
彼女はまだ、食堂の椅子に腰掛けたまま、ぐっすり眠っている。
こんな姿勢で、よほど疲れているのだろう。
ずっと寝かせておきたいところだが、このままにしておくわけにもいかない。
彼は、耳元で小さく彼女の名前を呼んだ。
ゆっくりとその瞳を開いた彼女は、彼の顔を見て慌てて立ち上がろうとした。

「ごめんなさい、うっかり眠ってしまって」
「いや、こっちこそ、遅くなってごめん。仕事終ってから、来月のライブの打ち合わせをしてたらこんな時間に」
「あ、来月ライブ決まったんだ、聴きにいくね。もう何があってもバイトサボって行くから」

彼女の笑顔に心が洗われる気がする。
でも・・・。
僕はこの笑顔に応えるだけのことを彼女にしてあげられているだろうか。
ダメだ、とてもそうは思えない。
彼は小さくため息をついた。

「どうかしたの?」

彼女が心配そうに彼の顔を覗き込む。

「いや、何でもない。それより君こそ、椅子で眠ってしまうほど疲れてるんだろ。そんなに頑張らなくても、何なら僕がもっと仕事増やすとか」
「これ以上増やしたら全然寝る時間なくなるじゃない」
「それはまあ、じゃあもっと割りのいいバイトに変えるとか」
「どんな」
「工事現場とか」
「それはダメ!」

彼女が強い口調で言った。

「指を痛める仕事はしないって約束でしょ」

そう、確かにギタリストにとって指は命だ。
生活のためにそこを犠牲にするわけにはいかない。
それはわかっているのだが、そのために彼女に苦労を強いているのだと思うと彼の胸は痛む。
彼女がどうしようもなく好きで、後先考えず一緒に暮らし始めてしまった。
高い塀に囲まれた家で何不自由なく育った彼女にとって、ぎりぎりの今の生活はどんなにか辛いことだろう。
彼女は、何も言わない。
不平も不満も、一切口に出さずいつも笑顔で迎えてくれる。
だが、つい先日、彼女が水道料金の請求書を見てため息をついていたことを彼は知っていた。
僕は一体何をやってるんだ、彼女にそんな惨めな思いをさせるなんて。
思わず拳を握り締めた彼の手を、彼女の手がそっと包んだ。

「ねえ、やっぱり今日変よ。いやなことでもあったんじゃない」

彼女の優しさ、が、それは今の彼にとって余計に現状の辛さと惨めさを思い起こさせるものでしかなく・・・。
本当にこれでよかったのか、彼はその思いから抜け出せずにいた。

「君は、今の生活に満足しているのか」
「え・・・」
「僕の指のことばかり心配してるけど、君の指」

彼は彼女の細い指先を撫でた。
ついこの間まで、きれいに整えられていたそれは、荒れてささくれており、あちこちに絆創膏が貼られている。

「すごくきれいだったのに、ファミレスで皿洗いなんかしてるから」
「あ、違うの。っていうか、違わないのもあるけど、ここのはね、さっきスープ作ってるときにうっかり包丁で切っちゃったの。だから」
「だとしても、僕が君に苦労をかけているのは間違いない」
「何がいいたいの?」

彼女は彼を見つめる。深い色の瞳だった。
その瞳に誘われるように、彼は呟く。

「家に、帰ったほうがいいんじゃないか」



後編へ続く
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We Are Together いつもふたりで 後編 (小説)

彼女の顔色が変わる。たぶん、傷つけてしまっただろう、こんなことは言うべきじゃない。
だが、ずっと心に引っかかっていたこと、それを口に出してしまったことで、今まで胸に溜めていた負の感情が言葉となってあふれ出る、それを今更止めることなど出来なかった。

「家に帰れば、水道止められる心配なんかしなくていい。手を荒らして皿洗いをすることもなければ、家事だってしなくても安心して生活できるじゃないか。もう包丁で指を切らなくてもいい。ここにいたらいつこの生活から抜け出せるかどうかわからない、いや、一生このままかもしれない。僕に遠慮はしなくていい、君の人生を縛る権利は僕にはないんだから、もし帰りたくなったらいつでも、うわっ!」

いきなりクマのぬいぐるみが飛んできた。
彼女はいつの間にか立ち上がり、彼を睨みつけている。
こんな顔を見るのも初めてなら、ものを投げつけられたのも初めてだ。いや、そもそも今まで彼女の怒った顔を見たことがなかった。
驚いた、こんなことするんだ・・・。
床に落ちたクマを拾い上げる彼。あまりに驚いたため、今しがたまで支配されていた負の感情がどこかへ飛んでしまっていた。

「投げたりしちゃ駄目だろ、君の大事な友達じゃないか」

ここへ来るとき、彼女はほとんど身ひとつに近い形だったが、その中で唯一持ってきたものがこのクマだったのだ。
(本音を話せるのはこの子だけなの)
そう言っていたっけ。

「テディにはあとで謝るから。だって他のもの投げたらあなたが怪我するかもしれないし」

ほんのりと頬を染めてそう言う彼女。彼の胸がじんわりと温かくなる。
喧嘩するときまで相手のことを思いやってしまう、彼女の優しさが彼の心に響いた。
うつむいた彼女の肩に手をかけようとしたその時、

「帰れってどういうこと?」
「あ・・・」

彼女が顔を上げる。その瞳は涙で濡れていた。
ひどいことを言った、彼は後悔した。自分のことを信じて、すべてを捨ててついてきてくれた彼女に、いかに焦っていたとはいえ、なんてことを。

「ちが・・・」
「そもそも家ってなに?!ここはわたしの家じゃないの?!わたしはここにいちゃいけないの?!」
「ごめん!」

彼は彼女を引き寄せると、力いっぱい抱きしめた。

「幸せにしたい、っていつも思ってるのに、辛い思いばかりさせてて。それで、つい焦ってひどいこと口走って」
「ここに、いてもいいの?わたし、あなたの足手まといになってるんじゃ」
「そんなこと、あるわけない!」

思ってもみなかった。彼女がそんな風に考えていたなんて。
僕が彼女のことを思い、心配する以上に、彼女は僕を気遣い、僕の幸福を願ってくれていた。

「ずっと一緒にいよう。何があっても二人で乗り越えていこう」

頷く彼女が何よりいとしい。
彼は彼女の手を取ると、絆創膏だらけの指にくちづけた。
いつか、いや、近いうちにきっと、元の通りのきれいな指にしてみせる。そして、この指によく似合う、銀のリングを贈ろう。そう思いながら。
それまでは、そうだ、忘れてた。
彼はポケットから小さな紙袋を取り出した。

「なあに、それ」

小首をかしげて尋ねる彼女にそれを手渡す。彼女は袋を開け、中から小さな缶を取り出した。

「ハンドクリーム・・・」
「今朝から気になってたから、さっき24時間営業のファーマシーで買ってきた。一応薬剤師さんの勧めるのにしたけど、気に入らなかったらあとで取り替えてもらえるって。ここで指輪出したりしたらかっこいいんだろうけど、そんなもんでごめん」

彼女は激しくかぶりを振った。その瞳から涙が溢れ出す。

「ありがとう、ほんとに何よりすてきなプレゼントだわ」

しがみついてくる彼女を彼が優しく抱きとめる。
あたたかな、幸福なひととき。それは何よりも大切なもの。
いつの間にか、生活に疲れて忘れかけていた。でも、もう決して忘れない。
この幸福を守りたい。
これからもずっと。

そう、ずっと二人で・・・。

We are together・・・。



                                The End.

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